IoTを用いたモノづくり工程管理高度化のための要素技術開発

更新日: 2022年5月9日
 

概要

 近年進展著しいIoT技術やロボット技術を活用してモノづくり企業の製造工程を高度化することは,製造歩留まりと製品品質を大きく改善し得る手法として期待され,企業の競争力を高める手法として取り組みが始まっている。当該技術を県内モノづくり企業の工程管理に導入することは,県内企業の競争力強化に大きく寄与できるものであるが,その一方で,中小企業においては,開発期間の短縮・開発リスクの低減への要求から,導入の取り組みに時間を割けない現状である。
 そこで,今後,企業での導入が本格化すると予想されるIoT技術について,当センターが先導的な技術開発を行い,関連する領域の基盤技術を確立することで,中小企業の効率的なIoT導入の支援につなげることが可能になる。このような目的のもと,本研究は,モノづくり企業のIoT化推進を促進する技術領域の要素技術開発として取り組まれた。①工程の見える化 ②設備保全の無線センサ化 ③工場内電磁ノイズ(EMC)対策 の3つの領域について,企業連携や産学官連携を活用して実施された研究成果について以下にまとめる。

 

サブテーマ 1-1 工程の見える化(磁気式異物検査装置)

 本課題では,これまで目視検査で行われていた製品検査を自動化/IoT化することを目的に,工具割れ等の破片が製品内に混入したことを検出する異物検査システムの開発,そして,画像処理を用いた製品外観検査技術の開発を実施した。ここでは,製造工程の途中で,ベルトコンベヤ等で搬送中の製品を全数検査できる,非破壊検査と外観検査とを複合化した検査システムの実現を開発イメージとして取り組んだ。

 粉砕機や加工工具の破片など製造装置の微少な欠損部材を検出することは,製造品への異物混入による不良品発生を防ぐほか,製造装置の破損発生を迅速に検出して不良品の拡大を防ぐ目的でも重要である。本研究では,このような磁性破片を検出するための静磁場式検査装置の実現を目指している。静磁場方式は,渦電流が測定の妨げになる金属筐体内部や電気回路基板上,あるいはこれに隣接した領域の検査が可能である。この開発では,ベルトコンベヤを流れる小型の製品と,大型の樹脂部品やアルミ鋳物の製品検査に対応できるものと,2種類の検査装置のプロトタイプを開発した。

サブテーマ 1-2 工程の見える化(分光画像計測)

 画像処理式外観検査の分野では,目視による外観検査工程での熟練技術者の勘と経験に頼った判別を定量化・自動化するため,分光画像計測技術に着目し,令和元年度に「AI併用型ハイパースペクトルカメラ」(エバ・ジャパン(株)製NH-8及びSIS-I,Future Processing社製Adaptive Vision Studio)を導入した。具体的な技術支援への活用と展開に向けて,ハイパースペクトルカメラとAIの連携によるインライン検査を想定した外観検査技術を開発した。

サブテーマ 2 工場内設備保全の無線センサ化

 本課題では,設備保全のIoT化を推進することを目的にして無線センサを活用するための要素技術開発を行った。具体的には,IoT体験キット8)をモジュール化し,それらを組み合わせた各種の低消費電力型の無線ユニット提案。IoT体験キットと組み合わせ容易な環境発電ボードの開発。そして,環境発電体の価値を高める一体化環境発電ユニットの開発を行った。また,高効率な振動発電セルとして磁歪発電と電磁誘導を複合化した発電構造を提案した。

サブテーマ 3 工場内の電磁ノイズ評価

 IoTセンサネットワーク技術の普及に伴い,工場の製造現場への無線センサの導入要望が拡大している。特に,製造工程の異常発生を予知したり異常をリアルタイムで検知したりする無線システムは中小企業の現場でも強く求められている。本研究では,工場内で発生するスイッチングノイズ等のパルス状ノイズがセンサネットワークの通信に及ぼす影響を明らかにし,その評価方法を提案するとともに対策指針を明らかにすることを目的にして,以下の検討を行った。

 はじめに,①実際に稼働中の工場内部のノイズを測定するとともに,これと類似するノイズ波形の発生源となる加工装置を抽出し,ノイズが発生するタイミングや特徴を明らかにする。次に,②加工機のノイズと類似のノイズ波形を発生させて無線センサネットワークの通信に及ぼす影響を確認する15)。③パルス状ノイズの計測評価や無線センサの通信に及ぼす影響を定式化するために,任意波形発生器でノイズ信号を模擬して,その影響や評価方法を探索する。

 これら3段階の検討を実施するに当たり,パルス状ノイズを計測し評価するのに適した測定機能を搭載した測定器を導入して,研究に活用した。結果として,工作機械から発生するパルス状スイッチノイズが920MHz帯センサネットワークの通信に影響を及ぼし得ることを明らかにし,このようなパルス状ノイズを測定評価する方法についての知見と経験を構築することができた。