3D Printing World in Akedori 2019」開催レポート

更新日: 2022年3月18日
 

2019年12月3日(火)に,「3D Printing World in Akedori 2019」を開催いたしました。
本イベントは,3DPrintingとAMに関するセミナーおよび技術展示による総合イベントとして開催いたしました。
65名の一般来場者の方にお越しいただき,また,13の技術展示ブースを展示し,多くの交流が図られました。

基調講演:「3Dプリンティングからアディティブマニュファクチャリングへ - 現在の状況」

ドイツ FIT AG アルベルト・クライン氏(Mr.Albert Klein)

基調講演として,ドイツのルプブルグに本社を置く,FIT AGのCFOであるアルベルト・クラインさんに講演をいただきました。

クライン氏による基調講演
クライン氏による基調講演

FIT社は,AM(Additive Manufacturing)の分野において,50台以上の産業用AM装置(3Dプリンター)を保有し,世界のトップクラスの造形ノウハウを有する企業です。
航空機・自動車・医療等の多くの産業用途で非常にクオリティの高い造形を,コスト最重要視で,技術的に最善の結果を導き出す取り組みを行っています。
AMにおいては,試作と量産では,考え方が全く異なるとされています。試作は,コストや品質要件が,量産に比べて低いことが多いですが,量産では,そのハードルが一気に上がります。

FITクライン氏
FITクライン氏

AMにおいて,コストと品質の両立のためには,生産性をも加味した独自の設計が必要になってきます。 また,そうしたAM用の設計も,部品単体ではなく,その部品が構成されるシステム全体から再設計していくことが必要となり,FIT社ではこうした取り組みを行っているとのことです。逆に,これ無しではコスト低減は図られないとのことです。
また,コスト低減のための最も重要なテクノロジーはソフトウェアであるとのことです。

FITにおけるAMへの取り組み方説明
FITにおけるAMへの取り組み方説明

これは,工程や,材料管理,計算による設計の自動化など多岐にわたり,これらの多くは発展途上または,まだまだ開発する要素の多い分野であるとのことです。
これらは,パッケージソフトウェアでは対応できないことが多く,FIT社では,これらの多くを自社開発しているとのことです。
また,AMの技術の中で最も信頼性を置いていて,自信を持っているのは電子ビーム造形装置(EBM)であるとのことです。

先日,トヨタから発表された新型EV車両「LQ」のコンソールパネルやドアミラーのステーに関しては,FIT社とトヨタが連携して,AM造形品を作製し,実車に搭載するそうです。これも,AM製造法を熟知したFIT社ならではの工夫を盛り込みながら,コスト,品質基準をクリアした製品になります。
この車両は,2020年東京オリンピックで,公道を走行します。
これらの新しい部品は,ドイツのFormnextで実物展示され,多くの来場者から注目を集めました。

トヨタ LQ 特設サイト
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/30063094.html

クラインさんの講演では,AMの現在および将来は,ソフトウェア技術,電子ビーム技術,材料品質,そして,コストが重要な要素であると再三述べておられました。
AMとものづくり産業の方向性を指し示していただいた,大変有意義な基調講演となりました。

エレベーターピッチ

技術展示に出展していただいた企業のみなさんから,出展内容の紹介などのプレゼンテーションをしていただきました。

エレベーターピッチ
エレベーターピッチ

各社5分間と短い時間ながら,スピード感あるご説明をしていただきました。
このプレゼンテーションの後,来場者は各ブースで詳細な説明を個別に聞くことができました。

展示交流会
展示交流会
展示交流会でのコミュニケーション
展示交流会でのコミュニケーション

出展者

(順不同)

講演:「金属AMの技術課題と研究開発」

東北大学 金属材料研究所 加工プロセス工学研究部門 千葉 晶彦教授

東北大学千葉教授講演
東北大学千葉教授講演

千葉先生には,金属材料研究の観点から世界最先端のAMに関する情報提供をいただきました。 AMの金属材料に求められるのは,シミュレーションフレンドリー(シミュレーションに適した)材料であるといいます。
また,造形プロセス全般に関して,シミュレーションしつつ,それが現実世界と「対」になる「デジタルツイン」についても推進していく必要があるとのことでした。
このデジタルツインの高度化のためにも,真球性の高い材料が必要であり,真球であればあるほど,シミュレーションの計算式も軽量化できることから,より信頼性のある再現性の高い3D造形品が得られるとのことです。

東北大学千葉教授によるデジタルツイン解説
東北大学千葉教授によるデジタルツイン解説

また,世の中にはAM技術,3D造形に関しても新しい技術が多数現れてきており,注視していく必要があるとのことでした。

講演:「国内外における金属3D技術活用の最新事例のご紹介」

日本積層造形株式会社(JAMPT) 営業部長 小松伸弘氏

日本積層造形社小松氏講演
日本積層造形社小松氏講演

日本積層造形さんで取り組まれている材料開発やAM造形業務についてご紹介いただきました。金属AM造形専業企業として,電子ビームやレーザー方式の金属AM装置を多数保有し,造形サービスや材料開発も行い,自動車・航空宇宙分野での実績も増えてきているとのことです。
日本積層造形さんでは,11月にドイツで開催されたFormnextにも,宮城県企業として唯一出展し,海外顧客との接点開拓を行われていました。

日本積層造形社小松氏講演
日本積層造形社小松氏講演

また,東北大学千葉先生や地域企業と連携して,新たな金属材料開発も意欲的に行っているとのことです。

講演: 「これまでの事業展開及びAM技術への取組みについて」

キョーユー株式会社 取締役部長 早坂 健 氏

キョーユー早坂氏講演
キョーユー早坂氏講演

キョーユーさんの得意とする切削加工技術に関する情報提供をいただきました。大型の5軸切削加工装置など多数の加工設備を保有し,精密から大型まで,幅広い分野の加工を得意とされています。
金属加工を得意としつつも,金属以外にも地域素材である雄勝石の加工を行うなど,新分野へのチャレンジも行っています。

キョーユー早坂氏
キョーユー早坂氏

この度,MDEの金属粉末3Dプリンター研究会において,電子ビーム造形品の後加工に取り組まれましたが,基準出しの方法が,これまでの加工品での経験がそのままでは活用できなかったことから,苦労はしたものの重要な知見が得られたとのことです。このAM造形品の加工分野に今後も積極的に関わっていきたいとのことでした。

講演: 「みやぎデジタルエンジニアリングセンターの概要」

宮城県産業技術総合センター 伊藤 利憲

宮城県産業技術総合センターで運営している,「みやぎデジタルエンジニアリングセンター(MDE)」についての業務紹介を行いました。

みやぎデジタルエンジニアリングセンター事業紹介
みやぎデジタルエンジニアリングセンター事業紹介

また,伊藤がドイツ現地のFormnextで得た情報についての概要報告を行いました。
大きな方向性としてはAM技術については,量産や後加工技術が多く出展されており,汎用的な生産技術として広がっていくだろうと思われること,また,シミュレーションなどのソフトウェア技術も進んでおり,それらはAM分野において,コア技術になっていくだろうとの感想を報告しました。

みやぎデジタルエンジニアリングセンター事業紹介
みやぎデジタルエンジニアリングセンター事業紹介

今後も,MDEでは多数のAM/3D Printing関連事業を行っていく予定です。

パネルディスカッション:テーマ「地域企業はAMについて何をすべきか」

パネルディスカッション
パネルディスカッション

登壇者

パネラー:

  • FIT AG アルベルト・クライン氏
  • 東北大学金属材料研究所 千葉晶彦教授
  • 日本積層造形(株) 小松伸弘氏
  • キョーユー(株) 早坂健氏

モデレーター:宮城県産業技術総合センター 篠塚慶介

これまでの講演者とともに,表記テーマについて双方向型のパネルディスカッションを行いました。 クラインさんからは,ドイツのIndustry4.0の経緯に関して言及があり,その本質は「ロボット化とAIである」とのことでした。これがAM産業にとっても,中心的な技術だろうとのことです。AM産業のキーテクノロジーはソフトウェアであるとも力説されておられました。 また,小さな企業においては,試作と量産は分けて考えるべきで,既存の部品をそのままAMに当てはめるのではなく,AM最適化の再設計が必要となり,ドイツでは中小企業でもその動きが進んでおり,それによってコスト回収ができつつあるとのことでした。
千葉先生からは,デジタルツインについてさらなる言及があり,クラインさんのお話と同様に,シミュレーションを正確に行うためのソフトウェア開発並びに,材料開発の必要性が述べられました。また,イノベーションのためには,様々な観点からの大きな投資が必要で,他国では,そうした大型投資が行われている。AMによって製造業全体が大きく変わる中,日本でも投資が必要な時期であるとの言及がありました。
日本積層造形の小松さんからは,新しい材料開発に熱心に取り組んでいるとのこと。日本におけるAM産業全体の発展のためには,社内外でまずはやってみようというチャレンジ精神が必要であるとのことでした。

パネルディスカッション
パネルディスカッション

キョーユーの早坂さんからは,MDEの研究会で取り組んだ後加工については,多くの知見が得られた。今後,顧客もAMに取り組みたいという声を聞いているので,そうした中で自社としても後加工分野で強みを出していきたい,とのことでした。
会場からも多くの質問をいただき,充実した議論となりました。

講演: 「トポロジー最適化支援 Additive Manufacturingの先にあるもの」

名古屋大学大学院 工学研究科 加藤 準治 教授

ドイツでの研究経験も持つ加藤先生から,トポロジー最適化に関する最新トピックスの話題提供がありました。

名古屋大学加藤教授講演
名古屋大学加藤教授講演

AMの進展につれて,トポロジー最適化の重要性が再認識されてきています。
これまでは,「理論上」可能だった形状生成が,AM技術発展により,現実的に形状として作製することが可能になってきています。
最近のトピックスとしては,2種類以上の材料(マルチマテリアル)によるトポロジー最適化であり,この分野の研究が進んでいるとのことです。

名古屋大学加藤教授
名古屋大学加藤教授

AM技術の進展に伴い,こうした難易度の高いシミュレーション結果に基づいて,現実に造形可能なAM装置も登場するものと思われます。

おわりに

今回は,AM技術や産業で世界をリードするドイツから,AM産業に精通しておられるFIT社の講師をお招きして基調講演を行っていただきました。また,各講演者からも世界や日本に通用する最先端情報を提供いただき,講演者,技術出展者,参加者同士のコミュニケーションも図られました。
世界最先端の情報を,仙台のここ明通(あけどおり)で得られるというコンセプトを体現するイベントになったのではないでしょうか。
本イベントにご出席いただきました参加者の皆様をはじめ,技術展示にご協力いただいた企業の皆様,講演いただいたクラインさん,千葉先生,小松さん,早坂さん,加藤先生,そして,全体にわたって通訳いただいた水原翻訳事務所の水原さん,通訳補佐協力Fablab SENDAI FLAT 大網さんに感謝申し上げます。
今後も,同様のイベントを随時開催いたしますので,引き続き,みやぎデジタルエンジニアリングセンターの活動にご注目ください。

関連情報

実施主体

主催:宮城県産業技術総合センターみやぎデジタルエンジニアリングセンター),みやぎ高度電子機械産業振興協議会
共催:経済産業省 東北経済産業局