ニーズに合わせた産業用水中ドローンを開発~株式会社チック

更新日: 2023年2月24日
 

産業用水中ドローンのカスタマイズを得意とする株式会社チックは,2017年に仙台市内にて起業し,学術機関や各企業からの依頼を受けて様々な機体を開発しています。

今回,エンジニア兼ドローンパイロットで代表を務める石田氏と,同じくドローンパイロットの内海氏に,同社の業務の内容や宮城県産業技術総合センター(以下「センター」)の活用事例についてお話をお伺いしました。

測量やインフラ調査で活躍する水中ドローン

「弊社では主に市販の水中ドローンをカスタマイズし,各用途に合わせた専用機体を製作しています。例えば,海底ケーブルの埋設前後の調査や,工場の大型タンク内の保守管理,雨水管の調査などに使うドローンの製作をしてきました。現地でのドローン操作も行っています。」(石田氏)

同社の主力製品である「カスタム水中ドローン」は,既存の機体をベースに,各種センサーの搭載や駆動系の出力アップなどのカスタマイズを行った製品です。主に産業界で活躍し,人が入れない場所や危険な場所での測量・調査等で活躍しています。

水中ドローンに搭載する部品を組み立てている様子。

「現場では,自動運転のプログラムを組んで動かす場合もありますし,自分が船の上から直接操縦する場合もあります。水中ドローンの操縦は有線接続で行います。」(石田氏)
「実は(パイロット)二人とも船酔いがひどくて,調査場所に船で行くまでが一番大変ですね。(笑)」(内海氏)

パイロットの二人は全国の海に出向き,様々な調査を精力的に行っています。とくに沖縄のように離島が多い場所は海底ケーブルがたくさん埋設されているため,水中ドローンが活躍する機会が多いとのことです。

カスタマイズ作業中の水中ドローン。

アーム式デジタイザ(ベクトロン)の活用

「海底の三次元モデル(海底の地形を3Dデータ化したもの)を作るための水中ドローンを開発中です。三台のカメラと測量用のソフトウェアを組み合わせて作っています。この開発で,搭載する各カメラの正確な位置関係を知る必要がありました。」(石田氏)

同社では,現在開発中の水中ドローンのためにセンターのアーム式デジタイザ(ベクトロン)を活用しました。

まずは,搭載されたカメラや機体のフレームを三次元でスキャンし,ポリゴンデータ化する作業から進めていきました。

アーム式デジタイザ(ベクトロン)で取得したデータの一部。

「画像をベースに三次元モデルをつくる技術があるんですが,画像には“寸法情報”が含まれていません。今までは,(寸法を割り出すための)基準スケールを海に沈めて,それも一緒に撮影することで寸法を割り出していました。今回は,アーム式デジタイザで各カメラの位置関係を把握し,そこから三角測量の要領で(基準スケール無しに)三次元モデルの寸法情報を計算する設計にしています。」(石田氏)

アーム式デジタイザ(ベクトロン)で取得したポリゴンデータを水中ドローンの3D-CADデータとベストフィット(2つのデータを距離の誤差が最小となる位置で重ね合わせる方法)し,各カメラの正確なXYZ座標と相対距離を割り出しました。

カスタマイズ用パーツの開発

「3D-CADで設計したフレームなどのオリジナルパーツを,3Dプリンターで出力して使うこともあります。これは(下写真),大型のドローンを組み立てているところで,試作には既存の部品もいろいろと活用します。」(石田氏)

「強度がしっかりした金属部品もオリジナルで作っていきたいですね。」(内海氏)

様々な大きさや仕様の水中ドローンを手掛ける同社のスタジオには,制作中の機体や部品のストックだけでなく,オリジナルのパーツを製造するための3Dプリンターや工作機械が所狭しと並べられています。

大型ドローンのスラスター。取付け用のフレームは既存の金属部品を流用。
様々な部品ストックが収納棚に整理されている。

「庭には実験用の大型プールもあり,試験運転や水漏れのチェックなどを行っています。」(石田氏)

同社のスタジオは,3D-CADや3Dプリンターなどのデジタル技術を活用する環境と,実試験を行うためのリアルな環境が上手く融合していました。

試験運転用の大型プール。

今後のビジョンやセンターに期待すること

「産業用ドローンの拡張部品を作っていきたいです。3Dプリンターで制作した部品は強度が不足することもあるので,金属で加工したいですね。」(石田氏)

「(ドローン活用の可能性が大きいので)今後どういう業種でドローンが活躍するか分からないくらいです。どんな業種があるのか教えてください。(笑)」(内海氏)

「各部品の電子ノイズを確認したり,水圧をかけたときのリーク試験などもしたいです。今度センターに相談しにいきます。」(石田氏)

今後,さらにドローン活用の場が広がっていくと予想されますが,同社では各業界からの細かなニーズに合わせた開発をこれからも行っていきたいとのことでした。

※センターでは各分野の職員が,企業からの技術相談に応対しています。

会社概要

所在地〒981-3203 宮城県仙台市泉区高森4-2-342
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電話022-739-8861
※受付時間 10:00~16:00
ウェブサイトhttps://www.chick-fun.jp/
代表取締役石田一浩
主な事業産業用ドローンに関連する業務(機体開発,測量・調査,ドローン操作技術講習など)。