平成5年度宮城県工業技術センター研究要旨

更新日: 2022年3月4日
 

宮城県工業技術センターが平成5年度に実施した研究報告の抄録です。

微小試験片法による工業製品の破壊特性評価に関する研究

10mm×10mm×0.5mmtに代表されるタイル状微小試験片を用いた 小型パンチ(SP/MSP)試験法を応用して,金属,セラミックスならびにそ れらの複合材料に対して,室温から高温(1800℃)までの機械的特性評価( ヤング率,破壊応力,破壊靭性値など)が可能な破壊特性評価システムの構築を 行った。また,この微小試験片法とアコースティック・エミッション(AE)と を併用する事により,室温から高温までの材料の微視破壊プロセスの評価も可能 となり,新しい材料の効率的な開発の一助とすることができる様になった。

新素材の精密加工技術に関する研究

 サーメット及びセラミックスに適用できる精密研削条件・方法を探究し,次の 成果を得た。(1) 光ファイバー等の光部品のコネクターを製作するため,ジルコ ニアセラミックスへの高精度溝入れ加工技術(1μm以下の加工精度)を確立し た。(2) セラミックス(SI3N4,Al2O3,ZrO2,SiC)の鏡面加工技 術(Rmax 0.1μm以下の鏡面)を確立した。(3) サーメット研削に最適な「 スリット入り」ダイヤモンド砥石を開発した。

金属粉末の作製・成形技術に関する研究

 ガスアトマイズ法によってアルミニウム合金の急冷凝固粉末を作製し,その粉 末をプレスによる一次成形,真空焼結で固化する技術について検討した結果,鋳 造材のようなマクロ的な偏析が見られず,均一で微細な結晶組織を有する焼結材 が得られた。これらの研究をとおして中小企業の技術者の養成を図った。

エクストルーダによる機能性食品製造技術に関する研究

 二軸型エクストルーダは,搬送能力,混練,せん断力に優れ,加熱温度,圧力 ,加水量の調節が容易であることから,一軸型では困難であった粉体原料等の膨 化が容易に可能である。そこで,有効利用されていないヒマワリ搾油粕の食品素 材化に着目し,二軸型エクストルーダを用いた,スナック製造の検討を行った。 ヒマワリ搾油粕は,コーンスターチや増粘多糖類の副素材を混合することで,膨 化可能であり,加工処理澱粉等を副素材として用いたところ,良好なテクスチャ ーのものを得ることができた。さらに,味付けを行い,スナック様食品を試作した。

コンクリート品質の早期判定技術に関する研究

 コンクリートはこれまでメンテナンスフリーの建設材料と考えられてきたが, 近年,塩害やアルカリ骨材反応に代表されるコンクリート構造物の早期劣化が大 きな社会問題になっており,コンクリート品質を良好に保つことがますます重要 になっている。しかしながら,例えばコンクリート品質管理のひとつである強度 管理は,コンクリートをサンプリングしてから検査結果が判明するまで 28日も 要するので,その変動に対するアクションは取り難い状況にある。
 そこで,コンクリートの水,セメント比はコンクリートの品質(強度及び耐久性等)を決定する重要な因子であるが,まだ固まらないコンクリートの水,セメント比を迅速に精度よく測定が出来る測定器は種々開発されてはいるが,まだ十分とはいえず,早期判定技術の確立が要求されている。従って,ここではコンクリートの品質を早期に判定するための試験装置を開発するために各種の装置を応用し迅速で簡便に,しかも精度よく測定可能にするための各種データの蓄積を行った。

岩出山町凍豆腐の通年生産化に関する研究

 岩出山町の特産品である凍豆腐の通年生産化を目的として,凝固工程における 豆乳の温度を一定とする豆乳管理装置及び乾燥工程前の凍豆腐の含水率を均一化 する連続脱水装置を開発,試作した。豆乳管理装置については,おから分離直後 の90〜100℃の豆乳を1〜2分で凝固剤添加の最適温度である70℃近傍ま で冷却でき,充分な性能を備えていることが明らかとなった。また,連続脱水装 置では,圧搾ローラーのギャップ間隔を3mmとした場合,75%前後であった 凍豆腐の含水率が装置通過後,約56%まで均一に減少し,次の自動乾燥工程に 必要な一様な含水率の凍豆腐が得られた。
参考写真:
自動乾燥工程装置の外観写真

HIP接合による高機能SCMの開発と評価

広域共同研究(国庫補助事業)で行われました。
関連写真: 発表会の模様
関連写真: 発表会の模様

  1. セラミックス/金属系HIP接合体の開発と評価 ジルコニア(TZ-3Y)/ステンレス(SUS316L)系接合体を作製す るにあたり,その中間層に11層傾斜機能材料(FGM)を用いて,真空ガラス カプセリングおよび熱間等方圧圧縮(HIP)処理を行う事により,従来の接合 法では得る事のできない程の最高で母材強度の40%という高い接合強度を得る 事ができる接合プロセスを開発した。
  2. 粉末射出成形プロセスによる高機能焼結材料の開発
     昨年度まで研究開発した小形・複雑形状の金属焼結部品やSCMを射出成形法 によって製造する技術,その一連の工程(粉末とバインダーの混練,射出成形, 脱脂,焼結等)をチタン粉末,ニッケル/ジルコニア複合粉末に適用し,検討し た。その結果,チタン粉末焼結材料の場合,工程中に酸素を固溶することによっ てチタン本来の延性的性質が失われる問題があるが,射出成形法によって焼結材 料の作製が可能である。またニッケル/ジルコニア複合粉末を応用した焼結材は ,従来の混合系よりも微細で,しかも均一に分散した組織を有することが明かと なった。

傾斜化構造を有した無機質/木質系複合材料の開発と評価

傾斜機能材料(FGM)の作製技術を応用し,珪酸カルシウム系コンクリート /ゼオライトおよび/木質系傾斜複合材料の開発を行い,その特性評価から吸放 湿性,寸法安定性,材料強度特性等に優れた多機能建築・家具用資材である事が 明かとなった。なお,これらの成果は現在特許出願中である。(特許の名称:調 湿性成形物およびその製造方法 番号:特願平5-200963)

醸造用原料および前処理工程の検討

 宮城県内で用いられている酒造用水に関して,pH,有機物,金属類,硬度等 の項目について分析を行った。地域による差はあるが,総じて全国の酒造用水に 比べると硬度が低く,鉄分が多い傾向にあり,鉄分除去の必要性が感じられた。 県内産ササニシキ及びひとめぼれの酒米分析を行った。平成5年度産米は,例 年に比べて直糖分が少なく(8.6〜8.9%),粗タンパク質が多い(7.6 〜9.6%)傾向にあった。
 このため平成5年度産米の使用に際しては,麹歩合を減らし酵素剤を添加する 等の方策が必要であると思われた。

凍豆腐製品の高付加価値化

 岩出山凍豆腐は,伝統ある特産品であるが,生産額はここ数年横ばい状態であ る。そこで,岩出山が将来にわたって,凍豆腐製造を積極的に展開するための一 助とすることを目的に,異種タンパク質混入凍豆腐を提案し,これらについて市 場調査も行った。その結果,製品化及び,起業化の展開について方向性を見いだ すことが出来た。

農産物・海洋資源の組合せによる高付加価値化商品の開発

県内未・低利用資源の有効利用の一環として,ヨシキリ鮫の用途拡大を目指し ,鮫肉を基本素材とした複合食品の開発を試みた。これまでに,サメ肉に大豆テ ンペあるいは卵白と脱脂大豆を混合し,二軸型エクストルーダを用いることで, 組織化食品を得ることができた。今回,商品としての具現化を目指して,得られ た組織化食品の需要予測と起業化の可能性調査を行った。

狂いにくい・腐りにくい・燃えにくい木の開発

 無機質(リン酸水素バリウム)含浸木材に高温加熱処理を施すことにより寸法 安定性および耐朽性が大きく改善されることがこれまでの研究結果から判明して いるが,高温加熱による難燃性そのものに対する影響については不明である。 よって,燃焼試験によりその難燃性能について検討したところ,難燃性能は無機 質の含浸率によって決定されており,加熱処理による難燃性への影響はあまり見 られなかった。また,今回の実験では含浸率40%以上において難燃3級の性能 を有していた。

県産豚骨の食品素材化,及び最適飼料の探索:県産豚骨の食品素材化研究

豚枝肉の生産により産生する豚骨は,タンパク質,ミネラル等栄養素の宝庫で ある。そこでこの豚骨を食品素材とすべく研究開発を行った。豚骨をペースト状 に加工し,基礎成分,無機成分等について分析を行ったところ,カルシウムが豊 富であることはもちろん,タンパク質,ビタミン等も豊富であり食品素材として たいへん興味深いものであった。無機成分等での食品素材として不適格な物質は 検出されなかった。

高周波プラズマ発光分光分析法による微量分析法の研究

 高周波プラズマ発光分光分析法の高感度化を図る目的で,抽出試薬 O,O-ビス (2-エチルヘキシル)ハイドロジェン チオフォスフェイトを含浸させた樹脂 を微量の鉛イオンの予備濃縮に応用した。250mlの試料溶液に0.5gの含浸樹脂を 加え2時間撹拌することにより,鉛イオンは完全に樹脂相に抽出された。樹脂を 分離し,2.8モル硝酸10mlを加えて撹拌することにより鉛イオンは完全に水相に 逆抽出された。この場合の濃縮倍率は25倍で,0.025ppmの鉛の分析が可能となっ た。これにより排水中の0.1ppm以下の鉛イオンの分析を可能とした。一滴法の実 験からは20μlから100μlの範囲で,試料溶液の容積に関係なくμg量の鉛の分析 を可能にした。

本場仙台味噌製造用の有用微生物の探索

 仙台味噌製造にふさわしい乳酸菌の分離を目的として,自然界から乳酸菌を分 離し,そのうち54株をPediococcus halophilusと同定した。同定された54株 より至適温度により実用の可能性を有する19株を選抜し,更に糖類発酵性,生 成有機酸組成について検討した。糖類発酵性については,選抜した19株のうち キシロースのみで発酵が認められた株は3株,アラビノースのみが1株,両者と も発酵可能なものは15株であった。有機酸に関しては,従来の知見との大きな 違いは認められなかった。

複合材料の研削加工に関する研究

 セラミックスとSUS304の複合材料をダイヤモンド砥石で研削加工する場 合,研削抵抗が大きい,砥石摩耗量が大きい等の難削性を示す。ダイヤモンド砥 石によるSi3N4-SUS304の研削切断を対象とし,一定の加工条件下で加工方向と砥 石形状が研削抵抗,砥石摩耗量に及ぼす影響を調べた。その結果,以下の知見が 得られた。
(1)切断方向(砥石回転方向)SUS304からSi3N4にした場合,研削 抵抗が小さい。
(2)砥石台金側面に逃げ部をもうけることにより,研削抵抗が 減少する。
(3)セグメント砥石では研削抵抗がかなり小さくなるが,砥石摩耗 量は増大する。

凍結濃縮法による県産資源からの機能性食品の開発

食品の加工法の一つとして凍結濃縮法があるが,これに,強力な氷核剤として 注目されている氷核細菌を用い,緩和な条件下で操作を行い,食品素材の開発を 試みた。晶析過程での菌体の固定化の検討を行い,リアクターに利用可能かどう か検討した。その結果,シランを用いたものが一番活性を有していた。

画像解析によるプラスチック複合材料充填材分散状態の評価

 繊維充填プラスチック複合材料の繊維フィラーの配向・分散状態は成形品の機 械的特性等に大きな影響を及ぼすため,材料設計,成形条件の決定に重要なパラ メータである。この繊維配向分布や繊維分散状態を非破壊的かつ簡易的に測定, 評価する手法を開発するため,4年度は2次元フーリエ変換を用いた解析法につ いて検討し,解析方法の適用限界を明らかにするとともに,実際に射出成形品に 適用して有効性を確認した。本報告では,分散状態のフラクタル次元を用いた方 法を提案し,電磁シールド材料である導電性プラスチック材料の充填材分散状態 のフラクタル次元とシールド性能の関係について検討した。その結果,繊維分散 状態のフラクタル次元とシールド性能に良い相関性が得られた。

難削材料の三次元加工に関する研究

 近年,高剛性,高送り精度を有し,さらに高性能なNC機能等を持つ,グライ ンディングセンタが相次いで開発されている。グラインディングセンタの持つN C機能を用いてテーブルと工具間に三次元相対運動をさせることにより,高脆性 難削材であるセラミックスや超硬合金の三次元加工が可能であり,製品の高付加 価値化をはかることができる。本研究では,グラインディングセンタによるセラ ミックスの三次元形状(平面,溝,ねじ)加工について検討を行った。その結果 ,カップ砥石による平面研削加工では材料除去率を一定とした場合,砥石切込み 量が大きく,工作物送り速度が小さい加工条件の方が加工量に伴う研削抵抗の切 込み方向分力Fnの増加が少なく,表面あらさも小さくなることが分かった。また ,グラインディングセンタによる溝研削及びネジ加工が可能であることが分かっ た。

カキ殻の処理・有効利用技術研究

 カキ殻が接触酸化処理の接触材として機能し,接触酸化処理装置内に巻上がっ たヘドロが汚濁海水と共に供給されていく場を概念として組んだ実験系および汚 濁海底に直接カキ殻を散布したような場を概念として組んだ実験系から,汚濁海 域浄化に向けたカキ殻の効果を検討した。その結果,カキ殻を組み込んだカラム 通水式浄化装置は,濁度減少効果,アンモニア性窒素減少効果,亜硝酸性窒素・ 硝酸性窒素の減少効果が究めて大きいことが判った。

微生物による水産資源の高度利用化の研究

 真鱈中落ち肉の再ブロック化を目的とし,低い蛋白変性の魚肉を得るために, 中骨から魚肉の剥離を試みた。
処理のpH,温度,時間等について検討した結果,30℃の酢酸ナトリウム緩 衝液中でpH 5.0〜6.0,2〜3時間の処理で比較的魚肉蛋白変性の少ない 剥離が可能であることが認められた。
 ただ,処理により魚肉の形状や状貌を異にするため,目的製品対象物に対する 処理方法を使い分けることが考えられ,今後の検討が必要である。

魚体頭部脂質の加工:水産物の脳内高度不飽和脂肪酸の高度利用

 マグロの眼か部に含まれているドコサヘキサエン酸(DHA)をグリセリドの 形で濃縮するために,眼か油脂肪酸の分子内分布と,眼か油に対する6種類のリ パーゼ活性について検討した。DHAはトリグリセリド内に比較的ランダムに存 在していた。リパーゼOFは眼か油に対して最も強い活性を示し,加水分解の進 行に伴いグリセリド中のDHA濃度も上昇し最大50%まで濃縮できた。このと きDHAは70%程度保持されていた。