平成7年度研究報告抄録

更新日: 2021年11月19日
 

宮城県工業技術センターが平成7年度に実施した研究報告の抄録です。
平成7年度宮城県工業技術センター研究報告(ISSN 1340-7775)より

知的イメージプロセッシングシステムに関する研究

 本研究では,工業製品の自動検査・選別工程で採用されている画像処理技術において特に画像の取得環境に着目し,画像センサの焦点,露出および照明等の検査環境を自動最適化する機構を構築することにより検査対象表面の微細な傷の検出を可能とし,従来の手法では困難であった複雑な立体形状を備えた製品の全容の自動検査システムを構築することを目的としている。今年度は,塩化ビニル平板上の傷を照明環境を変化させながら撮影し,得られた画像上の傷に相当する画素数の総計を求めて,照明の角度及び強度が検査対象の表面の欠陥の検出精度に及ぼす影響を調査した。その結果,欠陥の検出精度に対する照明角度の影響は極めて大きいことが明らかとなった。さらに,照明角度の切り替えにより欠陥と対象表面に付着したホコリとの弁別を行うことが可能であることが示された。

高機能マニピュレータの開発

 第一次産業における各種作業の自動化・省力化を実現するための要素技術として , 対象物およびその周囲の状況を認識するセンシングシステムの検討を行なった。まず, 主として大域的な判別のために視覚センシング機構を検討し, スタート後は対象物の探索範囲を最初の検出位置周辺に絞ることで処理速度の高速化を図った。次に, 視覚では識別が困難な障害物等を検出するために小型力覚センサを用いた触覚センシングシステムを検討し, 障害物からの反発力に応じて払いよけたり回避したりすることを可能とした。そして, これらの処理を複数のCPUに分担させ, 共有メモリを用いてセンシング情報を統合することにより, 実用的な制御を可能とするシステムを構築した。

超精密・鏡面研削加工技術に関する研究

 本研究では,超精密加工の中でも製品の高品位化を高める鏡面研削加工を取り上げ,超精密・鏡面研削加工技術に関する研究者を養成し,中小企業の技術の高度化・技術競争力を高めることを目的とした。 そこで,ラッピング等の研磨加工領域の鏡面加工法から,高精度・高能率な研削加工領域の鏡面加工法への転換を検討し,ダイヤモンド砥石の選択,微粒ダイヤモンド砥石のツルーイン グ・ドレッシング法及び加工条件・方法について実験・考察を行った。
 その結果,高速度鋼,ダイス鋼(SKD11),ステンレス鋼(SUS440C)については,通常,4〜8時間程度の加工時間を要していたものを,1時間以内で表面粗さ80 ナノメーターの鏡面が得られる加工方法を開発した。

木質系緩衝材の製造技術の開発

 発泡スチロールに代表されるプラスチック緩衝材の代替としての木質系発泡体の製造技術の調査と地域の発泡スチロール工場に適用し得るプロセスの開発可能性を検討することを目指した。今年度は,ポリスチレンビーズに水蒸気爆砕処理した木粉を複合化させ,発泡成形性,曲げ強度,圧縮強度,吸放湿性等を調査した。

機能性焼結複合材料の開発
放電プラズマ焼結法による高温度傾斜を付与した焼結複合材料の開発と評価

 放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering:SPS)法を用いて,大型・複雑形状窒化ケイ素作製の可能性について検討を行った。その結果,従来法である雰囲気焼結やポットプレス,HIP(熱間等方加圧)焼結と比較すると,焼結温度が100〜200 ℃低く,これにより結晶粒が非常に微細化されているのがわかった。また,φ100m m×20mmtの大型焼結体が加熱・冷却を含めた全焼結工程において約2hで完了し,焼結体のバラツキも平面・厚さ方向に対して数パーセントの範囲内である事が判明した。さらに,Y 軸方向のプレスを用いた加圧焼結のネックとなっている複雑形状焼結体作製への対応として,CIP(静水圧プレス)により予めφ25mm のボールを成形し,これを用いて真球度を損なわずにSPS 法により真球焼結が得られるか否かを検討したところ,焼結温度と加圧力の最適化を図る事により,相対密度95 %の真球焼結体ができる事が明かとなった。今後,SPS 焼結条件の検討をさらに進める事により,より高い緻密度の真球焼結体を作製すると共に,真球以外のさらに複雑形状な焼結体の作製を目指す。

NNS成形プロセスによる焼結複合材料の開発と評価
 MIM法を金属/セラミックス複合材,チタン/アルミ(金属間化合物)等の難加工素材や汎用合金鋼素材に応用し,小さくて複雑形状な構造部品等を製造する技術の確立を目的として一連の製造プロセスである粉末とバインダーの混練性,射出成形性,脱脂特性,焼結について検討した。その結果,金属/セラミックス複合材料の部品製造を行うには複合粉末を用いることによって可能であるが,分散状態にバラツキがあり機械的特性の信頼性に劣ること,チタン/アルミ金属間化合物では酸化によって脆性となってしまうことなどが明かとなった。実用化のためには今後さらに研究が必要である。一方,クロムモリブデン鋼(SCM415)やステンレス鋼(SUS 630)等の汎用合金鋼については粉末冶金法としては卓越した機械的特性が得られ,構造部品への応用が可能であることが明かとなった。

傾斜化構造を有した無機質/木質系複合材料の開発と評価

 昨年度までに実施してきた木質(木材破砕片,オガ屑)/ケイカル(珪酸カルシウム系コンクリート)系,ゼオライト/ケイカル系の傾斜複合建材の作製プロセスに基づき,大量・連続生産システムの検討を行った。その結果,これまでに試作を実施してきた材料の各種特性を損なわずに,かつ現有設備に大きな改良を施さずに県内企業で実施可能な製造プロセスとして,(1) 丸網抄造法(薄板パネル対象)と (2) 熱圧プレス法(厚板パネル対象)の2種類がある事が判明した。今後,これらの実機ラインを用いて実際に大型パネルを試作し,この中で製造プロセスにおける問題点の洗い出しや市場の動向調査などを行い,早期の製品化を目指す。

ポリテオリン酸含浸樹脂を用いた鉛含有排水処理への応用

 希薄な溶液から金属イオンをを回収する目的で,アルキル-モノ-チオリン酸を多孔性ビーズに含浸させた樹脂について検討しているが,本年度は排水中のPb( II)の除去を対象としbis(2,4,4,-trimethylphentyl)dithiophosphinic acid 含浸樹脂について検討した。この試薬はPb(II)と安定な錯体を形成し,0.01N の硝酸溶液での分配比Kdは4.8で,酸性溶液からPbを完全に回収することができた。また,この樹脂の吸着容量は4.8×10-2meq/g であった。1.2ppmのPb(II)を含む排水をカラム処理したところ0.025ppmにすることができた。

乾き気相熱処理による木材の高機能化に関する研究

 窒素雰囲気または飽和蒸気中でスギ辺材に熱処理を施し,加熱温度,処理時間,含水率などが処理材の寸法安定性,結晶化度,木材成分などに及ぼす影響について検討した。その結果,窒素雰囲気では加熱温度の上昇に伴いASEとMEEは向上し,180℃付近に結晶化度の最大値を示した。また,木材成分には大きな変化は見られなかった。対して,飽和蒸気では重量減少率や収縮率が増大し,熱処理時に共存する水分が処理材の品質に大きく影響することが明かとなった。

光造形法による精密鋳造製品の開発

光造形法による樹脂模型を適用した新しい精密鋳造技術の確立を目的に,鋳型製作から溶解鋳造に至る各工程の製造条件の最適化を図る。本年度は,光硬化樹脂模型を作製,精度評価するとともに,鋳型作製について主に検討した。また,従来のワックス模型との焼成条件のちがいについても比較検討した。

醸造用原料及び前処理工程の検討

 ササニシキ,ひとめぼれ等の県産飯米は,酒造好適米に比べ初期吸水性が小さく,粗タンパク質含量が若干多めであり,もろみ期において溶け易い米質であった。
蒸米品質の評価方法として,酒米特性分析のひとつである消化性試験が有効であることと,蒸きょう時間が進むとともに蒸米中のフォルモール窒素が減少していくことが確認された。
 また,県内酒造工場の和釜での蒸米工程は,初期に蒸気湿り度0.1〜1%とし,終期には過熱蒸気へ移行する蒸し方が,香味やサバケが良好な蒸米に仕上がることが判明した。

蒸気爆砕法による海藻バイオマス利用技術の開発

 これまでに爆砕処理による海藻の可溶化状態の把握のため各種成分の分析や,各単独操作と可溶化率の関係検討を行ったところ,爆砕処理により糖やタンパク質等の水抽出物質の増加が見られ,これは特に加圧処理による影響が大きいことが分かった。今年度は爆砕条件毎の可溶化について検討した。また,海藻は爆砕処理によって粘度が減少する傾向が見られることから,分子量分布についても検討した。その結果,爆砕条件を強くしていくことは成分抽出を効率的にもするが,強すぎると加熱による分解と思われる抽出量の減少が起きることが分かった。分子量については高分子域物質の低分子化傾向が見られた。

新形質米の高度利用化の研究
新形質米(紫黒米)を利用した低アルコール飲料の開発

 無精白・無蒸煮の県産紫黒米を用いて清酒の試験醸造を行った。酵素を利用することで,無蒸煮の紫黒米を用いても,清酒の製造を行うことができたが,無精白の原料を用いるともろみの溶けが悪い発酵先行型のもろみ経過になりやすいことが確認された。このことは,原料の表層やカリウム含量に起因するものと思われ,適切な原料処理や酵素処理が必要である。
 原料表層の色素を残して清酒製造を行う際には,麹や各種酵素剤の配合割合が,製品の品質に影響を及ぼすものと思われた。加えて,製成酒のアントシアン系色素の安定性を考慮したうえでの製品開発が必要である。

新形質米の他用途性の開発

 新形質米は,従来の米とは異なる性質を持ち,多種な米料理や加工食品に利用できるとされている。本課題は,その中の利用度の低い高アミロース米の用途拡大の検討を行ったものである。
 前年度までに,二軸型エクストルーダを用いて,高アミロース米の麺状化を行った。本年度は,製麺機による製麺化の可能性と,麺の食感の改善について検討した。

  1. 製麺機による製麺化
     通常のグルテン形成麺と同様な形成を行う為に,SH基含量の調整,試薬調製による製麺化を試みた。ある程度までは麺化可能であったが,ちぎれ易い等の欠点が残った。
  2. 食感改善
     米麺は,餅様感が強いので,それを軽減することを試みた。酵素による澱粉分解および澱粉除去により試みた。その結果,餅様感の軽減がみられた。

県産豚骨の食品素材化及びその最適飼料の探索

 県内で利用されていない豚骨の有効利用を図るため,豚骨をペースト状に加工し,その栄養評価,及びカルシウムの吸収特性について検討した。栄養成分としてはビタミン,ミネラルを多く含み牛骨粉に比較しても同等のものであり,カルシウムの吸収についても他のカルシウム化合物に比較して遜色のない消化・吸収性を示すことがわかった。今年度は大腿骨の様な硬い組織を焼結させずに,効率よく粒子の細かい骨粉に加工するための方法を検討した。豚骨を蒸気爆砕処理することによりマスコロイダーで加工するよりも効率よく細かい粒子の骨粉を得ることができ,麺や練り製品へ添加する食品素材としての利用がしやすくなった。

魚介類由来の酵素利用技術の開発

 昨年さんまで確認したタンパク質分解酵素が淡水魚,海水魚とも広く存在していることを確認した。また,粗酵素溶液を用いてタンパク質の分解の様子をみた。その結果,25℃,一夜浸漬でかなり低分子化していることが確認され本酵素を用いた調味料が,旨味成分を遊離する可能性があることが示唆された。(以上の結果の一部については,食品科学工学会大会にて発表し,特許出願(特願平7-274859)を行った。)

難削材料の三次元加工に関する研究

 本研究では,従来の研削盤と比べ,剛性が高く,また,同時三軸制御が可能なグラインディングセンタを難削材料の三次元形状加工に適用し,加工条件の検討を行った。
 その結果,クリープフィード形態(高切込み,低送り)の加工条件で研削抵抗の上昇率が小さく,かつ,表面粗さも小さく良好な結果が得られること,切り残しによる形状精度の低下を改善するためには,研削抵抗の小さな加工条件で仕上げ加工を行う必要があること等が明らかとなった。
 また,これらの結果を応用し,金型等の試作を行った。

大豆脱皮かすの利用とその味噌製造への応用

 セルラーゼ剤を用いて分解した大豆種皮分解液の糖の組成を確認し,単糖画分の主成分がキシロースであることを確認した。酵素脱皮した大豆を原料とし,味噌用酵素剤を用いて100gの試験醸造を行った。大豆種皮分解液無添加の試験区を対照区として,種皮分解液添加区との着色の差について検討した。また,着色の抑制を目的として,抗酸化機能を持った添加物(ビタミンC,トコフェロールなど)を加えた試験区での味噌の着色についても検討した。

加工処理澱粉を用いた組み合わせ食品の開発
 本課題は,澱粉の改質を行い,調理および保存時の安定性に優れる等の利点を持った澱粉製品製造への検討を行うものである。 本年度は,湿熱処理法および凍結乾燥法による澱粉改質を試みた。

  1. 湿熱処理法
     トウモロコシ澱粉に湿熱処理を施した。その結果,未処理のものと比較して耐熱,耐酸,耐機械性等が向上していた。さらに二軸型エクストルーダによる連続生産の可能性も検討した。その結果,水分量の調節等の課題が残った。
  2. 凍結乾燥処理法
     トウモロコシ澱粉に水やエタノールを添加して,凍結乾燥を行った。その結果,膨潤度や乳化安定化能が向上した。

プラスチックを用いた複合材料の開発に関する研究

 コンクリート管の化学腐食による劣化問題が顕在化している。本研究ではコンクリート管の遠心成形時に,粗骨材として適度に粉砕された廃プラスチック及び結合材としての自硬性樹脂スラリーを混入することで,軽くて耐食性に富んだコンクリート管の製造方法の確立を目指した。今年度は,廃プラスチック層の加熱溶融による内面仕上げ方式とスケールアップの検討を行い,次年度実施予定の実用化検討(地域研究者養成事業)への足掛かりを得た。

微生物による水産資源の高度利用化の研究

 真タラ中落ち肉を,緩衝液中で酵素剤(collagenase)を作用させ,処理後の中落ち肉を圧縮空気を用いることで,歩留まり80%程度の魚肉回収が可能となった。
 また,剥離にともなう酵素処理廃液の汚濁負荷源程度の測定から酵素処理時間は緩衝液を用い,1時間程度の処理が水溶性成分を低く抑えることを確認した。更に,剥離魚肉のブロック化は熱硬化の特性を有する増粘多糖類で様々な形態への対応が可能であることと,処理条件でゼリー強度を異にすることを確認した。
今後は,事業化への転換に向けて,工程の単純化とコストの低減化および食材への展開を本事業の一貫として行う予定である。

各種乾燥法による水産加工品の品質安定化に関する研究

 品質劣化(脂質酸化)を防止する各種乾燥法を検討することにより,水産物の機能性を保持し,且つ品質を安定させる新しい加工法,保存法を開発することを目的とした。今年度はイサダを対象に乾燥法による保存性向上に関する実験と,食品の抗酸化力測定法に関する研究を行った。具体的にはマイクロ波減圧乾燥機,冷風乾燥,凍結乾燥のそれぞれの方法によって,釣り餌用,食品素材用乾燥品の試作を行った。その結果,付着性,臭気,色度,復水性などの品質について評価したところ凍結乾燥品が最も優れていた。脂質酸化物の消去力を測定する抗酸化力測定法は従来なかった新しい方法で,乾燥食品の機能性の評価に利用することができる。