平成8年度研究報告抄録

更新日: 2021年11月19日
 

宮城県工業技術センターが平成8年度に実施した研究に関する研究報告の抄録です。
平成8年度宮城県工業技術センター研究報告(ISSN 1340-7775)より

目次
  1. 能動的視覚センシングによる3次元情報の認識とその応用に関する研究
    -高速高精細検査システムの開発-
  2. 能動的視覚センシングによる3次元情報の認識とその応用に関する研究
    -色彩画像処理による3次元物体の位置決め-
  3. 能動的視覚センシングによる3次元情報の認識とその応用に関する研究
    — FPGAによる画像処理の高速化 —
  4. 高機能マニピュレータの開発
  5. 難加工性材料の超精密・鏡面研削加工技術の開発
  6. 木質系緩衝材の製造技術の開発
    —古紙を活用した発泡系緩衝材の製造—
  7. 廃プラスチック活用耐食コンクリート製品の工業化研究
    -廃プラスチックを用いた耐食性ヒューム管製造の試み-
  8. 粉末冶金法による合金鋼機構部品の開発
  9. 機能性焼結複合材料の開発
    – 放電プラズマ焼結法によるバインダーレス窒化ケイ素セラミックスの開発 –
  10. 乾き気相熱処理による木材の高機能化に関する研究
    -オゾン処理による接着性の向上-
  11. 自己温度制御機能を有する面状発熱体の開発とその応用
  12. 光造形法による精密鋳造製品の開発
  13. 樹脂モデルを応用した簡易金型の作製
  14. 先端機能材料を用いた柔構造機械システムに関する基礎研究
    -知的複合材料の最適設計と制御/多重機能複合材料の創製-
  15. 低アルコール酒用酵母の開発
  16. 新形質米の高度利用化の研究
    – 紫黒米を用いた酒類製造 –
  17. 新形質米の高度利用化の研究
    – 新形質米の他用途性の開発-
  18. 長茄子の色素および組織の安定化に関する研究
  19. 澱粉の改質による食品素材の開発
  20. 食味評価法に関する研究
    -加熱等によるタンパク質変性の解析-
  21. 異種材接合状態の簡易非破壊評価に関する研究
  22. 水熱反応による魚加工残滓処理プロセスの開発
  23. 各種乾燥法による水産加工品の品質安定化に関する研究
    -新しい抗酸化能測定法の開発-
  24. 魚介類を用いた高呈味調味料の開発

能動的視覚センシングによる3次元情報の認識とその応用に関する研究
-高速高精細検査システムの開発-

堀 豊,太田 靖,笠松 博,鈴木 康夫,森 由喜男,伊藤 啓雄

本研究では,工業製品の自動検査・選別工程で採用されている画像処理技術において特に画像の取得環境に着目し,画像センサの焦点,露出および照明等の検査環境を自動最適化する機構を構築することにより検査対象表面の微細な傷の検出を可能とし,従来の手法では困難であった製品の全容の自動検査システムを構築することを目的としている。昨年度までの研究成果から,画像センサとして使用してきたエリアセンサ(CCDカメラ)の解像度の低さ及びそれを主因とする検査速度の低速性が開発した技術を実用レベルまで引き上げる際に大きな障害となることが明らかとなった。従って,本年度は,検査速度の高速化を目標としてシステム全体の見直しを行い,エリアセンサに代えて5000画素の解像度を備えたラインセンサを採用し,ラインセンサ専用画像処理ボードを導入した。その結果,従来のシステムでは数時間要していた平板上の微細傷の検査時間を十数分に短縮することが可能となった。
キーワード:画像処理,能動的視覚センシング,自動検査,高精細画像,高速処理

能動的視覚センシングによる3次元情報の認識とその応用に関する研究
-色彩画像処理による3次元物体の位置決め-

笠松博,堀豊,太田靖,鈴木康夫,森由喜男,伊藤啓雄

本研究では,工業製品の自動検査・選別工程で採用されている画像処理技術において特に画像の取得環境に着目し,画像センサの焦点,露出および照明等の検査環境を自動最適化する機構を構築することにより検査対象表面の微細な傷の検出を可能とし,従来の手法では困難であった複雑な立体形状を備えた製品の全容の自動検査システムを構築することを目的としている。これまで,プラスチック射出成型品の傷検査をターゲットにした場合に,傷の見え方が照明の角度に依存することを明らかにした。そこで本稿では傷が見えるように対象を動かすことで検査を行えるような位置決め手法を提案する。工業製品の2つの特徴(形状が既知である。幾何学的な形状が多い。)を利用し,対象の特徴点を記号化することで3次元的な状態認識を行い位置決めする手法を採用した。この手法を単純形状の物体へ適用した結果,ビデオカメラ,画像処理装置,そしてθステージなどを厳密に設置しなくとも,多くの場合7秒程度で位置決めできることを報告する。
キーワード:色彩画像処理,能動的視覚センシング,位置決め,3次元情報,自動検査

能動的視覚センシングによる3次元情報の認識とその応用に関する研究
— FPGAによる画像処理の高速化 —

太田靖,堀豊,笠松博,鈴木康夫,森由喜男,伊藤啓雄

画像処理を用いた検査システムは, 処理速度と信頼性の点でなお問題が多い。そこで本研究では, 処理の信頼性を向上させるために照明などの撮像環境を最適化して画像の品質を上げたり, 自動的に最適な検査環境に移動できるよう対象物の姿勢を認識する方法の研究をすすめている。さらにここでは残る処理速度の問題を改善するために, FPGA(ユーザの手元で中身をプログラム可能なLSI)を用いて画像処理をハードウェアで行なう方法を検討した。画像処理に時間がかかるのはデータ量が多いため演算のみならずそのデータ転送にも多くの時間がかかっているためである。そこで, 画像処理自体を高速化するために単純な処理はハードウェア(回路)で実行し, 無意味なデータ転送を減らすために処理回路を転送経路中に組み込んだ構成を検討し, これを現在すすめている検査システムへの適用を試みた。この方法により, 画像処理システムを大幅に小型化でき, 低コストな検査システムが実現可能となった。
キーワード:画像処理, 高速化, FPGA, ハードウェア処理

高機能マニピュレータの開発

太田靖,堀豊,矢口仁,森由喜男

長時間かがんだ姿勢での作業を省力化するための収穫マニピュレータシステムを試作した。主に苺収穫を目的としたハンド部を備え, 軽量化した駆動機構部, 視覚・触覚センサならびに制御コンピュータから成る装置を電動作業車に搭載し,主にハウス内で畝間を自動走行しながら作業を行なえる。
キーワード:収穫作業, 苺, 自動化, 力覚センサ, 視覚センサ

難加工性材料の超精密・鏡面研削加工技術の開発

和嶋直,森由喜男,矢口仁

近年,金型などの超精密部品では小さな表面粗さと高い形状精度を低い加工コストで生産することが要求されている。一般的にこれらの鏡面加工は,ラッピングや手仕上げ研磨などの遊離砥粒法によって行われているが,この場合,面だれなどによる形状精度の劣化や加工能率の低下などが問題となっていた。このような背景から,本研究では従来の鏡面加工工程の高能率化・高精度化を目的として,超精密鏡面研削加工技術の開発を行う。本報告では,最も需要が大きい鉄鋼を対象に,微小切込みが可能な超精密円筒研削盤を使用して極微粒ダイヤモンドホイールによる鏡面研削の可能性について検討した。その結果,極微粒ホイールの研削性能を高めるためには微小切込みが有効であり,また,ダイヤモンドホイールSD5000Bを使用してホイール半径切込み量0.1μm/revの微小切込み条件下でトラバース研削することにより0.08μmRyの鏡面研削面が得られることが明らかとなった。
キーワード:超精密加工,鏡面研削,難削材,鉄鋼,極微粒ホイール,仕上げ加工,表面粗さ,円筒研削

木質系緩衝材の製造技術の開発
—古紙を活用した発泡系緩衝材の製造—

鈴木康夫,伊藤啓雄,菅野洋一**,支部幹男***
仙台化成(株)**,北日本化学工業(株)***

機器類の輸送保全材として重宝に使用されている発泡スチロールの廃品の地球汚染物質としての使用規制が進んでおり,これに替わるクッション材が求められている。当該地域研究者養成事業では,これに替わるものとして,木質系材料を素材とした緩衝材の製造技術をめざした。 昨年度まで,原料素材にパルプ工場で副生するスクリーンリジェクト(BKPをスクリーンで除去した廃棄物)や水蒸気爆砕によって繊維化したスギ,タケを用いて,梱包材の利用に期待される低比重ボードの作製可能性を実験的に調べた。その結果,爆砕条件によっては高強度で,しかも寸法安定性,耐水性の高い木質系ボードをつくり得たものの,実用化については更に設備面を含めた検討が求められた。そこで本年度は,原料素材に爆砕処理の不要な機械的に粉砕された古紙を用い,天然の発泡性バインダーとしてゼラチンを選定し,緩衝材の製造を試みた。 その結果,古紙とゼラチンを含んだ水溶液にホルマリン等の架橋反応促進剤を適量混じえて高速攪拌して泡立たせ,乾燥してもその形状が保持され得ることを見い出した。なおこのとき,グリセリン等の柔軟化剤を加えると弾力性が付与されることも併せて見い出した。
キーワード:木質系緩衝材,発泡スチロール,クッション材,古紙,ゼラチン,架橋反応,発泡体

廃プラスチック活用耐食コンクリート製品の工業化研究
-廃プラスチックを用いた耐食性ヒューム管製造の試み-

小野仁, 鈴木康夫,佐藤尚洋,山根英人**, 大戸敦史****
***(株)ホクエツ ****中川ヒューム管工業(株)仙台工場

セメントコンクリートを用いてコンクリート管(ヒューム管)を製造する際に,産業廃棄物である廃プラスチックを複合化させ,軽くてしかも耐食性に優れたヒューム管を製造する技術を開発することを目指した。昨年度までに,実際にヒューム管製造現場においてスケールアップ試験を行い,ヒューム管の遠心成型時に廃プラスチックと自硬性樹脂を混入することにより,耐食性管の製造可能性を見た。また,自硬性樹脂を用いない内面仕上げ法として,廃プラスチックの加熱処理を検討した。今年度は,加熱処理を更に検討するとともに,無機系充填材として,シリカフューム混合コンクリートを用いてスケールアップ試験を行った。
キーワード:ヒューム管,耐食性,廃プラスチック,コンクリート管,遠心力締め固め法,シリカフューム

粉末冶金法による合金鋼機構部品の開発

千代窪毅 ,矢口仁

金属粉末射出成形法(MIM)による高性能焼結合金鋼機構部品の製造技術を確立することを目的として,高速度工具鋼(SKH51)粉末を用い機械的特性や組織について検討を行った。その結果rKH51の焼結体密度は焼結温度が上昇するに伴い増加するが,組織が粗大化してしまう。また,焼結雰囲気の影響によって,得られる焼結体の組織が異なり,力学的特性も変化する。特に,窒素中では粒界に窒化物が析出して,硬く脆い焼結体となった。
キーワード:MIM,ガスアトマイズ粉,高速度工具鋼(SKH51)組織,機械的特性

機能性焼結複合材料の開発
– 放電プラズマ焼結法によるバインダーレス窒化ケイ素セラミックスの開発 –

斎藤 雅弘,鈴木 康夫,伊藤 啓雄

窒化ケイ素セラミックス(Si3N4)は,原料粉末の高純度化や微細化,焼結条件の最適化などの様々な工夫を加える事により,室温環境下において高い諸特性を有しているものもこれまでに数多く開発されてきている。しかし,そのほとんどが焼結性確保のために多量に添加している数種類の焼結助剤の軟化が主因となり,高温環境下においては本来持ち合わせている諸特性を大きく阻害されているために,1273K以上の環境下における高温部材としての利用は遅々として進展していないのが実状である。そこで本研究では,Si3N4 の高性能化および用途拡大をめざし,焼結助剤の添加量の低減化に着目すると共に,従来の製造法と比較して高効率の焼結が可能な放電プラズマ焼結(SPS)法を用いる事により,1673Kまでの高温領域における諸特性に卓越した Si3N4の開発を他に先駆けて行った。
キーワード:放電プラズマ焼結(SPS),窒化ケイ素セラミックス,焼結助剤,高温強度, 高温酸化

乾き気相熱処理による木材の高機能化に関する研究
-オゾン処理による接着性の向上-

熊谷 実,鈴木 康夫,伊藤 啓雄

木質材料の接着性を高めるために,気相雰囲気にオゾンを用い,オゾンによる酸化処理を試みた。オゾン処理に紫外線照射や加熱処理を組み合わせた場合の木材接着性について検討した結果,3つの処理を組み合わせて処理した時に最大の接着強さが得られ,接合物の接着強さは未処理品に較べて1.4倍も向上した。
キーワード:接着性,オゾン,紫外線,加熱処理

自己温度制御機能を有する面状発熱体の開発とその応用

中居倫夫,熊谷実,鈴木康夫

カーボンブラック,グラファイト,金属等のフィラーを分散させたプラスチック複合材料が研究され一部実用化されているが,近年,PTC特性(Positive Temperature Coefficient)を持った導電性プラスチック複合材料がヒーター材料として注目されている。このPTC特性とは,プラスチックの熱膨張に起因してプラスチック中に分散した導電性粒子間の結合が切れることにより発現すると説明されている。本研究では,エチレンメタクリル酸コポリマー中にカーボンブラックを分散させることによりPTC特性を持つ発熱体を開発し,これを面状に成形することにより自己温度制御機能を有する面状発熱体を試作し,特性の評価を行った。
キーワード:自己温度制御機能,面状発熱体,エチレンメタクリル酸コポリマー,カーボンブラック,PTC特性

光造形法による精密鋳造製品の開発

荒砥孝二,永山広樹,千代窪毅,矢口仁

光造形法による樹脂模型を適用した新しい精密鋳造技術の確立を目的に,鋳型製作から溶解鋳造に至る各工程の製造条件の最適化について検討した。本年度は,光硬化樹脂模型の薄肉化による鋳型割れとの関係について実験的に検討した結果,模型肉厚を1mm以下及び中空ハニカム構造に成形することにより,割れを防止することができた。 また,三次元複雑形状製品に本鋳造法を適用し,試作した。
キーワード:光造形,樹脂模型,精密鋳造,ロストワックス法,鋳型,割れ,ハニカム構造

樹脂モデルを応用した簡易金型の作製

矢口 仁,千代窪 毅,永山広樹,荒砥孝二

既製のプラスチック成形品をマスターモデルとしてアルミ粉/エポキシ樹脂型を作製し,その転写性,機械加工性,また射出成形機で成形性について検討した。その結果,マスターモデルのあらさを数μmのオーダーで転写が可能で,機械加工性も良好であった。またポリプロピレンの成形(成形温度:190℃)では,500 ショットまで型には異常がないことを確認したが,ポリカーボネートの成形(成形温度:300℃)では約100ショット程度で表面にピンホールが発生した。ただし,成形サイクルを十分長くすれば型に異常を与えず成形可能で,少量生産用の成形型として十分に利用できることが判った。
キーワード:光造形,簡易金型,アルミ粉/エポキシ樹脂,転写性,射出成形

先端機能材料を用いた柔構造機械システムに関する基礎研究
-知的複合材料の最適設計と制御/多重機能複合材料の創製-

久田哲弥,斎藤雅弘,千代窪毅,矢口仁,伊藤啓雄

本研究は,機能材料の高機能化および構造材料との複合化・知的化,また分散型マイクロシステムの構築と柔構造システム制御に関する基礎研究を行い,医療機器などのフレキシブルな構造を必要とする機器に応用することを目的としている。分担課題である「多重機能複合材料の創製」では,HP(ホットプレス)や SPS(放電プラズマ焼結)等の焼結法および各焼結法の焼結条件を変えて,アルミのマトリックスにTi-Ni系形状記憶合金繊維で強化した自己修復機能材料を試作した。試作材料の引張試験を行った結果,SPS法では短時間で強固な複合材料が作製できることがわかった。またAE(アコースティック・エミッション)法や破断面の SEMによる観察を試み,試作材料の機械的特性評価,破壊プロセスの推定,材料の知的化に向けた破壊検知の可能性について検討した。
キーワード:先端機能材料,自己修復機能,Ti-Ni系形状記憶合金,Al/SMA系複合材料,焼結材製造技術

低アルコール酒用酵母の開発

今野政憲,橋本建哉,武田俊一郎,伊藤啓雄

市販の低アルコール濃度清酒60点について官能検査を行った結果,ビシナルジケトン類の総含有量が0.5ppm以上であった試料は何れもツワリ香の指摘が見られた。ツワリ香の前駆物質であるαーアセト乳酸を蓄積しにくい酵母を取得する目的で,協会7号酵母のイソロイシン(I),ロイシン(L),バリン(V)要求性変異株の分離を試み,ナイスタチン濃縮法によってどLV含有最少培地に比べて最少培地における生育が極端に悪い変異株を4株得た。この変異株を用いて小仕込試験を行ったところ,No30株の製成酒が安定して低いビシナルジケトン濃度であったが,対照の親株に比べもろみの発酵が遅い傾向にあった。
キーワード:低アルコール酒,ツワリ香,ビシナルジケトン

新形質米の高度利用化の研究
– 紫黒米を用いた酒類製造 –

今野政憲,橋本建哉,武田俊一郎,伊藤啓雄

糖化酵素を添加することで,原料配合の麹歩合をある程度まで減らすことが可能であったが,市販酵素の使用限度量で,全量麹を用いたものと同等の糖化を行うことは困難であった。糖化液中のアントシアン系色素は,低温下保存である程度色調の変化を抑えることができたが,特定の市販酵素剤を用いて糖化を行うことで,常温環境下でもその変化を抑えることが可能であった。紫黒米はトヨニシキに比べて醪の溶解が速く,製成酒中の酸度がやや高くなる傾向にあったが,甘味と酸味の調和に特徴のある低アルコール清酒を得ることができた。
キーワード:紫黒米,清酒製造,色素

新形質米の高度利用化の研究
– 新形質米の他用途性の開発-

對崎岩夫,小野寺隆,伊藤啓夫

新形質米は,従来の米とは,異なる性質を持ち,多種な加工食品等に利用できるものと思われる。その中で,高アミロース米に着目し,その用途拡大の一環として,製麺機による製麺化および食感の改善について検討した。製麺化は,グリアジンおよびグルテニン添加により行った。添加率3%で製麺化が可能であった。食感改善は,トランスグルタミナーゼ添加により行い,良好な食感を保持した麺を製造できた。
キーワード:高アミロース米,米麺,グリアジン,グルテニン

長茄子の色素および組織の安定化に関する研究

武田俊一郎

漬物は畑で取れたばかりの旬のイメージで食卓に華やかさを添えるばかりでなく,食生活の変化からその低塩化も進み,最近では有用な食物繊維の供給源としての価値も見直されてきている。ことに浅漬は和食に添えるサラダ風感覚で,漬物の生産量の中に占める割合は次第に高くなってきている。本県で産する長茄子は独自の形態や大きさから,郷土産品の漬物として固有の地歩を確保しているが,浅漬に関しては,夏場に限る季節商品としての対応のみであった。これは原料茄子の収穫期が7月から9月に集中し,茄子は組織が脆弱なことと果皮色素がアントシアニンで不安定なため保存が困難なことによるためであった。そこで限られた期間に収穫された茄子を,より長い期間にわたって浅漬漬物として供給するための処理方法の模索を行うため,現状の把握や保存の可能性についての検討を加えた。
キーワード:長茄子,塩蔵,組織,色相

澱粉の改質による食品素材の開発

對崎岩夫,小野寺隆,伊藤啓雄

澱粉の調理および保存時の安定性を向上させること等を目的として,加工処理による澱粉の改質について検討した。原料としてはトウモロコシ澱粉を対象とし,アミノ酸添加による方法を試みた。処理澱粉は,高温・低温耐性を示した。処理澱粉の膨潤度は増大した。乳化安定化能も,未処理澱粉より向上した。また,凍結乾燥澱粉の水分保持能も確認された。
キーワード:澱粉,加工,アミノ酸

食味評価法に関する研究
-加熱等によるタンパク質変性の解析-

伊藤あゆ美,毛利 哲,小野寺隆,伊藤啓雄

食味評価法の開発の第一段階として,豚肉のタンパク質についての分子量分布を解析した。試料として何種類かの品種の肉を使用し,それらについての生の状態のもの,加熱処理を行ったものについて分析を行った。その結果,国産の品種間での差は認められなかったが,外国産(カナダ産)のものでは分布に若干の差が見られた。これまで経験的に食味が違うと言われていた品種間においては今回の試験条件では有意差は認められなかった。
キーワード:食味,評価,豚肉,タンパク質,分子量分布

異種材接合状態の簡易非破壊評価に関する研究

中居 倫夫

現在,各種異種材料の接合材が研究され,一部実用化されている。これら異種材接合部の非破壊評価には,X線透過試験,超音波探査映像,電位差法等があり適用されているが,それぞれに一長一短がある。本研究では,X線の難透過材料である超鋼合金と工具鋼の接合部品を対象とし,さらに,超音波探査映像の適用が困難な複雑形状の接合体における接合状態評価に直流電位差法と有限要素解析を応用した手法を提案する。
キーワード:異種材接合,ろう付け,非破壊評価,電位差法,有限要素解析

水熱反応による魚加工残滓処理プロセスの開発

渡辺洋一,伊藤あゆ美,鈴木康夫,伊藤啓雄

本研究は,本県で盛んな水産加工業から排出される食品残滓を,現在研究が積極的に行われている水熱反応を用いて溶液化することを目的としている。魚加工残滓(かに殻,えび殻など)の溶液化,有用物質の抽出のために,構成物質であるキチンの超臨界水加水分解実験を実施した。実験は,キチン純物質をバッチ式の反応管に水と共に仕込み,404℃に加熱された溶融塩浴にて加熱した。圧力は25MPa ,35MPaで,反応時間は30,40,60,120sec.に設定した。超臨界水中では,キチンの加水分解反応は高速に進み,また高い転化率が得られた。HPLCの測定結果よりキチンの加水分解生成物は,キチンオリゴ糖(N-アセチル-D-グルコサミン,N-アセチル-キトペンタオース)と,それより低分子量の物質であることが分かった。この実験で,水熱反応によって魚加工残滓より有用物質の抽出が可能であることが確認できた。
キーワード:水熱反応,キチン,超臨界水

各種乾燥法による水産加工品の品質安定化に関する研究
-新しい抗酸化能測定法の開発-

毛利 哲,小野寺隆,伊藤啓雄

各種食品素材中の脂質過酸化物還元能をHPLCを用いて測定した。本法により脂肪酸およびリン脂質ヒドロペルオキシドの還元能を感度良く測定できた。魚類は総じて活性が高かったが,植物でもねぎなどに特徴的な活性がみられた。
キーワード:脂質過酸化物,リノール酸ヒドロペルオキシド,リン脂質ヒドロペルオキシド,還元,HPLC,クーロメトリック電気化学検出,グルタチオンペルオキシダーゼ

魚介類を用いた高呈味調味料の開発

橋本建哉,今野政憲,武田俊一郎

魚類を原料とした,高い旨味を持つ新たな調味料の開発を目的として原料から効率的なエキス成分の回収について検討を行った。市販酵素剤17種の中から酵素を選定し,酵素による魚肉の低分子化についての試験を行った。その結果から再仕込魚醤油製造のための一次仕込配合をもとめた。
キーワード:調味料,タンパク質分解酵素,魚介類