平成9年度研究報告抄録

更新日: 2021年11月19日
 

宮城県工業技術センターが平成8年度に実施した研究に関する研究報告の抄録です。
平成9年度宮城県工業技術センター研究報告No.29(1998)(ISSN 1340-7775)より

目次
  1. 宮城県産清酒製造用の有用酵母の開発
  2. 高機能コミュニケーションツールの開発
    – 聴覚障害者のための双方向映像通信システムの開発 –
  3. 運動神経系機能の解析と機能修復に関する研究
    -バーチャルリアリティ技術導入によるリハビリテーション訓練・評価システムの開発-
  4. 難加工性材料の超精密・鏡面研削加工技術の開発
    -ダイヤモンドドレッサによる微粒ダイヤモンドホイールのツルーイング・ドレッシング-
  5. 生体関連新素材の開発
    -ポア制御型バイオマテリアルの開発-
  6. 自己温度制御機能を有する面状発熱体の開発とその応用
  7. 乾き気相熱処理による木材の高機能化に関する研究
    -低温加熱処理による残留応力の低減-
  8. 光造形法の応用化研究
    (a)光造形法による精密鋳造製品の開発
  9. 光造形法の応用化研究
    (b)樹脂モデルを応用した簡易金型の作製
  10. 低アルコール酒用酵母の開発
  11. 清酒製造簡易管理技術の開発
    ー酒造用原料米の簡易水分測定方法ー
  12. 澱粉の改質による食品素材の開発
  13. 先端機能材料を用いた柔構造機械システムに関する基礎研究
    -知的複合材料の最適設計と制御/多重機能複合材料の創製-
  14. 形状記憶合金を用いた自己修復機能材料の性能評価に関する研究
  15. 超臨界流体を用いた環境調和型工業洗浄装置の開発
    〜洗浄度の解析手法の確立〜
  16. 魚肉練り製品用擂潰機の自動制御技術の開発
  17. アルカリ熱硬化法による低コスト・多機能建材の開発
  18. 古紙系緩衝材製造の工業化研究
  19. 長茄子の色素・組織の安定化に関する研究
  20. 水産物の抗酸化的特性を生かした機能性食品およびその保持技術の開発
  21. 食物繊維資源の有効利用に関する研究
  22. 食味評価法に関する研究
  23. 異種材接合状態の簡易非破壊評価に関する研究
  24. 水熱反応のバイオマスへの利用
  25. 廃プラスチックを活用した透水性ブロックの開発
  26. 微生物による水産資源の高度利用
    -高呈味調味料の開発-
  27. ガス置換フライヤーおよび高品質揚げ製品の開発

宮城県産清酒製造用の有用酵母の開発

橋本建哉,今野政憲,菅澤聡*,佐藤晴彦**,伊藤謙治***
開発部,*(株)佐浦,**(株)一ノ蔵,***宮城県酒造組合

 純米酒用酵母として,製成酒の香気に優れ,且つアルコール耐性に優れた株の選抜を試みた。アルコール耐性の強い株は得られなかったが,アルコール生成能の優れた株は数株得られた。MY-32株は,その中でも製成酒の官能評価の高さやアミノ酸度の低さの面から有望な菌株であったが,製成酒の酸度がやや高いことが問題点であった。
キーワード:純米酒醸造,アルコール耐性

高機能コミュニケーションツールの開発
– 聴覚障害者のための双方向映像通信システムの開発 –

笠松博,太田靖,堀豊*
開発部,指導部*

 本研究は,聴覚障害者のための手話会話による遠隔コミュニケーションを実現するシステムを開発することを目的としている。実現の可能性のある既存機器としてはテレビ電話があるが,手話会話への利用には未だ十分とは言えない。検討の結果,手話会話をするのに適した機能として以下の手段・手法が必要であることが分かった。
(1) 視線一致映像の構築
(2) 適応的画像情報伝送技術の構築
(3) 被写体自動位置合わせ処理技術の構築
 特に今年度は(1)についてごく簡単な視線一致アルゴリズムを提案した。今後これらの評価・検証が必要とされる。
キーワード:画像処理,手話,遠隔コミュニケーション,テレビ電話

運動神経系機能の解析と機能修復に関する研究
-バーチャルリアリティ技術導入によるリハビリテーション訓練・評価システムの開発-

堀豊*,太田靖,笠松博
開発部,指導部*

 本研究では,マルチメディア時代を迎え飛躍的に発展しつつある仮想現実技術を用いて,脳血管障害により四肢に麻痺の残った患者のリハビリテーション訓練・評価システムを開発することを目的とする。本研究開発の具体的な内容としては,専門病院内でも家庭内と同様の視覚環境を実現するリハビリテーション用VR空間構築技術の開発,補助者を必要としない自動リハビリテーション訓練技術の開発が挙げられる。今年度は,液晶シャッタメガネ及びポジショントラッカーを導入したリハビリテーション訓練・評価システムのプロトタイプを構築し,ポジショントラッカーの測定精度の検証実験を行い,さらにリハビリテーション訓練の試行実験を実施した。
キーワード:脳血管障害,バーチャルリアリティ,リハビリテーション

難加工性材料の超精密・鏡面研削加工技術の開発
-ダイヤモンドドレッサによる微粒ダイヤモンドホイールのツルーイング・ドレッシング-

和嶋直,森由喜男
開発部

 本研究では高い形状精度と鏡面レベルの表面粗さ(Ry 0.1 μm以下)を短時間に実現する超精密・鏡面研削加工技術の開発を行う。平成8年度はダイヤモンドドレッサによるダイヤモンドホイールのツルーイング・ドレッシング方法1) の開発及び鏡面研削加工条件の最適化を図ることで,従来の10倍以上の生産性の向上を可能とした。しかし,一般にダイヤモンドドレッサをダイヤモンドホイールのツルーイング・ドレッシングに用いることは不適とされており,そのツルーイング・ドレッシングのメカニズムは明らかではなかった。そこで,本年度はダイヤモンドドレッサによるツルーイング・ドレッシングのメカニズムの解明を目的に,ツルーイング・ドレッシング条件と研削性能との関係について検討を行った。その結果,ホイール半径切込み量とドレッサ送り量をダイヤモンドホイールの砥粒直径と同程度に設定することで,良好な研削性能が得られることを明らかにした。本法によれば,有気孔レジノイドボンド微粒ダイヤモンドホイール(直径200mm,幅8mm)を用いた焼入鋼( 150mm×50mm)の超精密鏡面研削において,表面粗さRy 0.08 μm以下の超精密・鏡面研削加工が可能な砥石面が3分以下の短時間で得られる。
キーワード:鏡面研削,難削材,微粒ダイヤモンドホイール,ダイヤモンドドレッサ,ツルーイング,ドレッシング

生体関連新素材の開発
-ポア制御型バイオマテリアルの開発-

斎藤雅弘
開発部

現在,全国的に高齢化が加速度的に年々進行しており,これに伴い骨密度の低下やこれに起因した骨折,および歯周病による歯の欠損など,骨や歯に関係した疾病が多数発生している。これらの抜本的な治療法としては,外科的に患部を人工的な骨や歯に置換すると言う手法が一般的となっている。しかし,既存の生体材料の多くは様々な手法を用いて生体適合性を付与しているにもかかわらず,治療後に完全に元の生体骨と一体化するまでには約3〜6ヶ月の長期間を要しているのが現状である。特に高齢者の場合,これが寝たきりへの引き金になり得るケースが多くなってきており,大きな問題となっている。また,同じ粉末原料を用いているエンジニアリングセラミックスと比較して,これらの生体材料は価格的に非常に高価であり,潜在的な需要が巨大であるにも関わらず,実際には使用できる患者が限定されている事もシェア拡大の大きな障害となっている。そこで本研究では,「ポア制御」と言う傾斜機能材料の概念を組み入れた全く新しい生体材料を開発し,生体適合性を始めとした生体材料としての大幅な特性改善とコスト低減を図り,本生体材料と県内の医療機関における高度な医療技術と組み 合わせる事により,高齢化医療対策の一助を担う事を目的とする。本年度は,生体材料として基本となるハイドロキシアパタイト(HAp)単体材の特性改善について検討を行った。
キーワード:高齢化,生体材料,人工骨,人工歯,ポア制御型,生体適合性

自己温度制御機能を有する面状発熱体の開発とその応用

中居 倫夫,熊谷実*
開発部,指導部*

 カーボンブラック,グラファイト,金属等のフィラーを分散させたプラスチック複合材料が研究され一部実用化されているが,近年,PTC特性(Positive Temperature Coefficient)を持った導電性プラスチック複合材料がヒーター材料として注目されている。平成8年度は,エチレンメタクリル酸コポリマーをマトリックスとした導電性プラスチック複合材料に自己温度制御機能が発現することを確認した。本年度は,本開発材料のPTC特性を保持した状態で,広い範囲の導電率制御を可能にする手法について開発するとともに,繰り返し通電特性,過熱試験等の耐久性評価を行い耐久性の確認を行った。
キーワード:自己温度制御機能,面状発熱体,エチレンメタクリル酸コポリマー,カーボンブラック,PTC特性

乾き気相熱処理による木材の高機能化に関する研究
-低温加熱処理による残留応力の低減-


熊谷実
指導部

 スギ丸太の残留応力の低減を目的として,密閉系の不活性ガス雰囲気で加熱処理を行った。加熱温度は90℃を選定し,低温での加熱処理効果について検討した。その結果,加熱処理を施すことにより丸太の含水率は一様に減少し,その分布は未処理材の含水率分布と同様な形状を示した。また,加熱処理によって材内の残留ひずみは大きく低減され,その値は約60%減少し,本手法の有効性が検証された。
キーワード:加熱処理,残留応力,含水率,スギ,丸太

光造形法の応用化研究
(a)光造形法による精密鋳造製品の開発

千代窪毅,荒砥孝二*
指導部,開発部*

 平成7年度より,光造形法による樹脂模型を適用した新しい精密鋳造技術の確立を目的に,鋳型製作から溶解鋳造に至る各工程の製造条件の最適化について検討している。本年度は,光造形によって鋳造方案を含めた一体化構造の複雑形状模型を作製することにより,方案(湯口系)と模型との接合などの工程を省力化し,鋳造方案の修正も容易に行えるように対応を図った。さらに,鋳造方案による鋳造製品の湯回り性への影響を調査し,鋳型予熱の有効性を見出した。また,光硬化性樹脂の熱分析(TG,TMA)により,鋳型割れを発生せず,かつ,効率的な脱模型ができる鋳型焼成条件について追究し,焼成時間を短縮した。
キーワード:光造形,精密鋳造,鋳造方案,湯回り,光硬化性樹脂,鋳型,割れ

光造形法の応用化研究
(b)樹脂モデルを応用した簡易金型の作製

矢口 仁*,千代窪毅,伊藤克利
開発部*,指導部

 製品と同特性を有する試作品が成形可能な射出成形用簡易型の開発を目的とし,光造形法を用いて作製する方法について検討した。この方法では簡易型中の複雑な3次元的キャビティ部分を光造形法により直接作製し,簡易型全体の構造は,光硬化性樹脂の欠点である耐熱性・機械的強度を向上させるため,キャビティ以外の部分にアルミ粉/エポキシ樹脂材を用いた複合構造にした。こうして作製した簡易型は,ポリプロピレン,ABS樹脂といった比較的低温・低圧で成形可能な汎用プラスチックの成形において数百ショットの成形に使用可能であった。この簡易型作製法には光造形品特有の表面性状の粗さという問題があるものの,この方法により作製した型は製品開発用試作品の成形みならず,多品種少量生産用としての利用が期待できる。
キーワード:光造形法,簡易型,光造形用樹脂,アルミ粉/エポキシ樹脂,複合構造型,射出成形

低アルコール酒用酵母の開発

今野政憲,橋本建哉,武田俊一郎
開発部

 低アルコール清酒に散見するツワリ香の発生を抑制することを目的として,前年度はイソロイシン,ロイシン,バリンの三重要求性変異株の分離を試み,さらに,分離株を用いた小仕込試験を行ったところ,製成酒中のビシナルジケトン類が安定して低い値を示す変異株4株を得たことについて報告した。
 本報では,前報で得たビシナルジケトン類低蓄積性変異株4株について親株由来の変異株であることを同定した。
 また,4株について変異の同定を行ったところ,アミノ酸要求性は付与されておらず,マルトース含有培地において増殖の遅延性が認められた。この増殖遅延はマルトース含有培地への分枝鎖アミノ酸の添加により回復した。
キーワード:清酒酵母,マルトース,分枝鎖アミノ酸

清酒製造簡易管理技術の開発
ー酒造用原料米の簡易水分測定方法ー

今野政憲,橋本建哉,武田俊一郎
開 発 部

 清酒製造工程において重要となる原料米の水分管理を中小の企業にも普及させるために,米麦水分計および家庭用電子レンジを併用した簡易な水分測定法について検討を行った。
 白米,浸漬米,蒸米,こうじ米の各試料について簡易分析法で水分の測定を行ったところ,常法に比べ,白米,浸漬米,蒸米は1.7〜1.9%低い値,こうじ米は2.7〜3.0%高い値を示した。
 同一試料の測定値については,白米においてはバラツキが殆ど無かったのに対し,浸漬米,蒸米,こうじ米と加工度が進むにつれて,標準偏差・分散とも大きくなる傾向にあった。
キーワード : 簡易測定法,水分,酒米

澱粉の改質による食品素材の開発

對崎岩夫
開発部

澱粉質食品の調理および保存時の安定性の向上を目的として,湿熱処理,凍結乾燥処理およびアミノ酸添加処理により澱粉改質を行い,膨潤性の向上や乳化性能の安定化等を試みた。今回は,麺類に改質澱粉を添加して,麺質の向上を検討した。改質澱粉の中で凍結乾燥させた各種の澱粉は,吸水性が高まることが確認された。小麦粉と混合したドウコーダー吸水性は,エタノール処理凍結乾燥澱粉のものが高い傾向を示した。凍結乾燥澱粉添加麺の物理性,放置による硬さの変化は減少し,可食期間の延長の可能性が示唆された。

先端機能材料を用いた柔構造機械システムに関する基礎研究
-知的複合材料の最適設計と制御/多重機能複合材料の創製-

久田哲弥,斎藤雅弘,矢口 仁
開発部

 昨年度の研究でアルミのマトリックスにTi-Ni系形状記憶合金繊維で強化した自己修復機能材料を試作し,試作材料の引張試験による性能評価を行った。その結果放電プラズマ焼結法(SPS法)によるものが非常に短い焼結時間で緻密で強固な焼結体が得られ,マトリックスとSMAの密着性も良い複合材料が作製できることがわかり,繊維強化の効果が十分に得られることを明らかにした。
 本研究ではAlマトリックスにSMAプレートを添加した材料を試作し,機械的特性評価を行った。その結果製造プロセスとしてSPS法の有効性を明らかにした。また引張り試験では理論強度の90%以上の強度が得られたほか,曲げにおける材料設計を行うことで十分に強度向上効果が得られることを明らかにした。
キーワード:先端機能材料,自己修復機能,Ti-Ni系形状記憶合金,Al/ SMA系複合材料,焼結材製造技術

形状記憶合金を用いた自己修復機能材料の性能評価に関する研究

久田哲弥,矢口仁
開発部

 昨年度に行った科学技術庁委託による地域先導研究において金属(Al) /Ti-Ni形状記憶合金(SMA)繊維系複合材料の試作および引張試験による性能評価を行い,放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いることで短時間で強固なマトリックスとSMAとの密着性に優れた材料が製造可能であることを示した。また今年度の科学技術庁委託・地域先導研究ではAlマトリックスにSMAプレートを添加したAl/SMAプレート系複合材料を試作して,引張り詞邇詩x向上効果を確認した。 本複合材料は変形したSMAがある温度で元の形状に戻ろうとする性質を利用し,自己修復する機能を持たせたものである。本研究ではAl/SMAプレート系複合材料について,引張りおよび曲げ変形に対する自己修復機能効果を明らかにすることを目的としている。その結果,変形量の小さい初期荷重における加熱による縦弾性係数の増加がそのメカニズムであることを明らかにし,曲げ試験において強度向上効果が大きいSMAの配置の場合にその効果も大きいことを確認した。
キーワード:先端機能材料,自己修復機能,Ti-Ni系形状記憶合金,Al/ SMA系複合材料,焼結材製造技術

超臨界流体を用いた環境調和型工業洗浄装置の開発
〜洗浄度の解析手法の確立〜

佐藤勲征,中塚朝夫*
指導部,*開発部

1 シリコンウェハ上の有機汚染物の定量を行うため,ウェハ表面にラングミュア・ブロジェット膜を形成させ,フーリエ変換赤外分光光度計を用いて透過法およびATR法による測定を行い,実験値とOlsenの理論値を比較検討した。その結果,平行偏光入射のFT-IR-ATR法では透過法の約25倍の感度が得られ,膜厚で1.0nmの有機汚染物のスペクトルは十分計測できる分析手法を確立した。この際,試料とATRプリズム間の隙間や光学系セッティングが非常に重要であることがわかった。
2 細孔中の有機汚染物に対する超臨界流体の洗浄力を評価するため 0.1〜0.5×1.0×20mmの非貫通孔を有する解体式のステンレス製標準試料を作製し,洗浄前後の孔中の油付着量をFT-IRの顕微反射法により測定した。その結果,超臨界二酸化炭素による洗浄で孔中の油は底部まで殆ど洗浄され,水系洗浄剤を用いた同様の実験と比較したところ細孔中の油の除去に対して優れた洗浄能力持っていることがわかった。
キーワード:洗浄,超臨界流体,二酸化炭素,LB膜,FT-IR,ATR

魚肉練り製品用擂潰機の自動制御技術の開発

小野寺隆,三瓶郁雄*,森田隆俊**
指導部,企画情報室*,(株)カネマル森田商店**

 魚肉練り製品製造における擂潰作業の自動化・省力化の為に,擂潰中のすり身の物性変化をインプロセスで連続的に把握できる複合型センサーの開発を行い,このセンサーが塩摺り中のすり身の状態の把握に有用であることを既に明らかにしている。これに引き続いて,本年度は特に本摺り(仕上げ摺り)工程における水のばし作業を対象に,調整水投入量等の自動制御を行うための検討を行った。その結果,塩摺り終了時点において,その後の本摺り作業中に加えるべき調整水量を推定し指示することが可能になった。更に調整水の定量供給方法及び温度コントロール方法などについて実用レベルでの検討を行い,調整水供給装置の仕様を決定し試作に着手した。
キーワード:魚肉,すり身,擂潰,センサー,自動制御

アルカリ熱硬化法による低コスト・多機能建材の開発

斎藤雅弘
開発部

近年,国内の各建材・住宅メーカーでは,バリアフリーや健康住宅思考の流れを受けて居住環境のさらなる向上をターゲットとして,多重機能建材の積極的な活用を図ろうとしている。しかし,施工主の意向からコストアップを伴うこれらの新しい建築材料の利用は遅々として進んでいないのが実状である。一般的に建材のコストパフォーマンスの1つの指標として,石膏ボードとの価格差が挙げられる。現在市販されている建築材料のほとんどがこの石膏ボードより高価な価格帯を設定している。このコストアップの要因としては原材料費ならびに製造プロセス(主として,新規製造設備の導入とその維持管理費)に係わるものが大きなウエイトを占めている。そこで本研究では,主原料として安価なパーライトやフライアッシュを用いると共に,製造プロセスとして比較的簡便な「アルカリ熱硬化法」に着目し,その反応メカニズムの解明と製造プロセスの最適化を図る事により,石膏ボードと同価格帯を維持しながら既存の建築材料に対してさらに付加価値を付与した低コスト・多機能化建材の作製技術を開発する事を主目的とする。また,さらにこれらの技術を県内の建材製造メーカーへ円滑にフィードバックさせる事により,最終的にはカタログベースの製品にする事もめざす。
キーワード:パーライト,フライアッシュ,アルカリ熱硬化法,低コスト,多機能化

古紙系緩衝材製造の工業化研究

原田牧人,中塚朝夫,豊島展*,和泉荘*
開発部,*鈴木工業株式会社

 近年,環境問題意識の高揚・リサイクルの定着・さらにダイオキシンの影響による小規模焼却炉の操業停止等に伴い,今まで廃棄物として焼却されていた「古紙」が大量に回収され,供給過多により「古紙」の再生のめどがたたないまま倉庫に放置され,新たな社会問題となりつつある。また,同様に環境問題・資源問題の一つとして「発泡スチロール」に代表される化石資源を原料とする緩衝材の使用制限がある。発泡スチロールはスチレンを主原料として生産され,幅広く使用されているが,環境保護の観点からすると,多くの問題点をかかえている。
 そのため,昨年度からこれらの一つの解決法として「古紙を利用した緩衝材」の開発を行ってきた。昨年度は,古紙とゼラチン水溶液を混合し,架橋反応剤を加えることにより,成形体を形成し,凍結乾燥が可能であること,さらに,柔軟化剤を添加することにより弾力性・緩衝性を発現することが見いだされた。
 本年度は,実用化にあたっての連続生産を想定したプロセス開発を行うため,バインダーとしてのゼラチンの基本物性把握・架橋反応速度の制御方法の開発および架橋剤添加の最適化をはかり,最適な配合処方を見いだした。さらに最適化された条件のもとで,大量生産のプロセスについて検討し,安定した発泡体の製造方法および熱乾燥によっても乾燥が可能であることを確認した。
キーワード : 古紙,ゼラチン,架橋反応,pH依存性,発泡素材

長茄子の色素・組織の安定化に関する研究

武田俊一郎
開発部

前報で,‡@塩蔵に用いる食塩水の短期平衡化,‡A低温貯蔵による組織性状と皮の変色などを検討した。しかし,食品に求められる安全性は漬物であっても避けられず,ことに浅漬は近年の低塩化傾向に加え原料性状が直接商品となっているため,素材の影響が直接消費者に伝わり易いものといえる。そこで原料品質の衛生管理面から素材の簡易滅菌処理を行い保有微生物の低減化を試みたところ,穏和な条件で対応でき,短時間の処理であるなら変色も少ないことを確認した。
キーワード:加熱処理,色差

水産物の抗酸化的特性を生かした機能性食品およびその保持技術の開発

毛利哲
開発部

 前年度までに食品中の脂質過酸化物還元型の抗酸化能を報告したが,なかでも効力の強かった魚介類,鶏卵,ねぎ類についてさらに検討し,併せてグルタチオンペルオキシダーゼの寄与についても検討した。
魚介類ではマグロ,カツオの効力が非常に高かった。魚介類,鶏卵は,グルタチオンペルオキシダーゼの寄与が大きいものと示唆された。ねぎ類では玉ねぎ,万能ねぎの効力が特に強かったが,グルタチオンペルオキシダーゼの寄与はほとんど無く,新規の抗酸化成分によるものであることが予想された。
ねぎ類の抗酸化成分は加熱安定性を持っており,実用上の期待がもたれた。
キーワード:脂質過酸化物,予防型抗酸化剤,還元,リノール酸ヒドロペルオキシド,グルタチオンペルオキシダーゼ,アリイン,アリシン,HPLC,加熱安定性

食物繊維資源の有効利用に関する研究

對崎岩夫
開発部

豆腐を製造する際に産出されるおからは,食物繊維の供給源として好適であるが,大部分は利用されずに,廃棄されている。そこで,おからを利用しやすい簡便な食品素材として開発することを検討した。
 ゼラチン水溶液に,おから,トランスグルタミナーゼおよび保湿剤を適当量混合して高速撹拌を行い,発泡させ,架橋重合化反応により形状を安定化させることで,おから成型物を得ることができた。おから成型物は,食品素材等として有効に活用できるものと思われた。

食味評価法に関する研究

畑中咲子,毛利哲
開発部

豚肉の美味しさを客観的に評価するため,平成8年度は水溶性タンパクの分子量と品種,熟成,加熱の関係を検討し,今年度は呈味成分について検討した。4種類の豚肉からスープを作り供試した結果,食味評価に影響を与える成分は閾値以上含まれるグルタミン酸と乳酸だった。さらに合成豚肉スープを使い,グルタミン酸と乳酸の濃度について確認した。
キーワード:食味,評価,呈味成分,豚肉

異種材接合状態の簡易非破壊評価に関する研究

中居 倫夫
開発部

 近年の工業材料の多様化に伴い,機能の異なる材料を接合し一体化した部品が研究され,一部実用化されている。本研究では,これら異種材接合部の非破壊評価手法として,基板に被覆された被覆層の剥離あるいは接合不良を検出する新手法の提案を行う。本研究では,被覆層の接合不良を,ポータブルな機器で,試験片の片面から非接触で非破壊評価する手法として,赤外線熱画像装置を用い,被覆層表面を加熱用ランプで加熱し被覆層表面の温度分布から欠陥位置と大きさを検出する手法について提案する。更に,測定精度の検討,測定原理についての考察を行った後,実際の接合品に適用し欠陥検出に有効であることを確認した。
キーワード:異種材接合,非破壊評価,熱画像,剥離

水熱反応のバイオマスへの利用

渡辺洋一,毛利哲
開発部

 本研究では,本県で大量に発生する水産業廃棄物の一つであるかに殻に着目し,かに殻に含まれるキチンの有効利用を目的として,水熱反応条件下において部分加水分解を行った。実験はバッチ式の反応管にキチンと水を仕込み,300℃〜350℃に加熱された溶融塩浴にて加熱する方法で行った。圧力は30MPaで,反応時間は60 〜1800 sec.の条件で,キチン粉末は50%以上溶液化した。HPLCによる分子量分布では,水溶性生成物は,有用オリゴ糖である5-6糖に相当する保持時間で溶出したが,ピラノース環からのアミノ基の脱離が観察された。
キーワード:水熱反応,キチン,キチン・キトサンオリゴ糖

廃プラスチックを活用した透水性ブロックの開発

小野仁,佐藤尚洋,高橋誠幸*
指導部,開発部*

 プラスチック系廃棄物を低コストで再利用するため,バインダーを使わずにプラスチック粉砕物を成形し,透水性の歩道用ブロックとして活用することを検討した。その結果,曲げ強度と透水性が実用品に近いレベルの試作品が得られた。歩道用として用いるには滑り抵抗値の向上などについてさらに検討する必要があるため,実用化には至っていないが,軽量で柔軟性があるので,他の用途への展開も考えられる。
キーワード:プラスチック,廃棄物,透水性,ブロック,成形体

微生物による水産資源の高度利用
-高呈味調味料の開発-

橋本建哉,今野政憲,武田俊一郎
開発部

 魚から高い旨味を備えた新たな調味料を造ることを目的として,再仕込魚醤油の試験醸造を行った。40℃,30日間二次発酵を行って試醸した各種再仕込醤油の一般成分を検討したところ,麹菌由来の酵素剤を用いて仕込んだ試験区で全窒素2.99%,ホルモール窒素1.81%の満足いく呈味の魚醤油が得られた。

ガス置換フライヤーおよび高品質揚げ製品の開発

毛利哲
開発部

 揚げ物製造におけるフライヤーのフライ油の寿命延長のため,油脂を窒素ガス置換して酸化劣化を防止する方法を試みた。フライ油に窒素ガスをバブリングして加熱後,定期的に油脂の酸価,色調,カルボニル価,極性化合物の割合を測定した。寿命期間の延長等さらに検討する余地はあるものの,実際に揚げ調理をしながらガス置換を行なえば,コスト的に有効な範囲内でフライ油の寿命延長効果が観察された。
キーワード:揚げ,フライヤー,加熱油,酸価,カルボニル価,極性化合物,脂質過酸化物