平成10年度研究報告抄録

更新日: 2021年11月19日
 


宮城県工業技術センターが平成10年度に実施した研究に関する研究報告の抄録です。平成10年度宮城県工業技術センター業務年報NO.30(1999)(ISSN1340-7783)より

宮城県産清酒製造用の有用酵母の開発

<事業名>地域研究者養成事業
<担当者名>橋本建哉,今野政憲
          (株)田中酒造店 関東宣道,(株)佐浦 菅沢聡,宮城県酒造組合 伊藤謙治
<目的>吟醸酵母をベースにエタノール耐性に優れた純米酒用酵母を開発する。
<内容及び結果>酵母のエタノール存在下生存能を評価する場合,従来法においては12日間ないし3日間を要していた。本研究においてはエタノール存在下生存能評価法の迅速化について,エタノール耐性変異株である協会11号酵母とその親株である協会7号酵母(いずれもSacchromyces cerevisiae,以下 それぞれK-11株及びK-7株)のエタノール存在生存能の差を指標として,評価法における前培養,エタノール処理及びメチレンブルー(以下,MB)染色の各条件について検討を行った。
エタノール処理条件(エタノール溶液成分,処理温度及び処理時間)の検討  SD最小培地を用いて振とう培養した供試菌体を用いて,エタノール処理条件の検討を行った。原らの方法1)(1.0%グルコース含有0.1M酢酸緩衝液(pH4.2)中にて15℃,7日間静置処理,大内らの方法2)(1.0%グルコース含有SD最小培地(pH5.6)中にて30℃,24時間振とう処理)及びエタノール水溶液法(30℃,30分間振とう処理)におけるエタノール濃度18%時のMB染色率はK-11株においてそれぞれ60.5%,83.4%,5.2%,K-7株においてそれぞれ100%,100%,22.9%であった。エタノール水溶液処理法はMB染色率が全体に低めであったものの,処理時間の短縮化に有効であることが示唆された。
メチレンブルー染色条件の(染色液成分)の検討 清酒酵母のエタノール存在下生存能の評価に際して従来法)はいずれも酸性化(0.1Mりん酸緩衝液(pH4.6))MB染色法を用いていた。一方で,佐見ら)はビール酵母の活性評価法としてスライドカルチャー法による活性測定結果と高い相関性を有するアルカリ性下(0.05Mグリシン緩衝液(pH10.6))MB染色法を提案した。本研究においては,清酒酵母のエタノール存在下生存能の評価に対するアルカリ性下MB染色法の有用性を,緩衝液成分と併せて検討した。上述した2緩衝液の他にグルシン,アンモニウム,ほう酸,りん酸の4緩衝液(いずれも0.1M濃度,pH10.6)について,SD最小培地振とう前培養法並びにエタノール水溶液法によって処理した菌体について比較した結果,アンモニウム緩衝液染色法においてK-11株とK-7株の最大MB染色率差(MB染色率はそれぞれ1.2%,61.0%)が観察された。
アンモニウム緩衝液染色法におれけエタノール処理最適濃度の検討 エタノール水溶液法によるエタノール処理時の最適エタノール濃度(16,18,20,22%)について検討した結果,30分から3時間迄の処理時間内において最もMB染色率が安定していたのは18%の場合(K-11株及びK-7株の30分処理においてそれぞれ3.5%,83.5%)であった。 以上,本報において提案する酵母のエタノール存在下生存評価法によって,前培養期間を除く所要時間は90分程度にまで短縮することが可能である。

IC応用ソフトウェアの開発

<事業名>先端技術開発事業:IC応用ソフトウェア開発事業
<担当者名>今井和彦,氏家博輝,小田桐章次
<目的>組み込み制御システムのIC応用ソフトウェアによる開発及び成果技術移転
<内容および成果>研究内容
精密金型,光学部品の加工で問題となる工具と被加工物との高精度相対位置計測の自計測システムの要素技術としてレーザ光の回折現象を用いた間隙測定システム[1]の研究開発状況について報告する。

間隙測定システムのテストベッド
まず,砥石とWorkの間にレーザ光を投射し,実際に回折縞が観測可能であることを確認するため実機のモデルとして精密平面研削盤(OKAMOTO DSG-5V,(最小垂直移動距離:0.5μm×1/100),半導体レーザー(発振波長:670nm),間隔測定用としてMagne scale(Nikon MC-102,精度:1μm)を用いて回折縞を観察した。次に砥石とWorkの間隙の他に,回折縞の間隔及び中心縞の幅に影響を与える要因について検討するために,光学テストベッド(シグマ光機)を構築し,He-Neレーザー(日本科学エンジニアリングHN510P,波長:632.8nm)単スリット(日本シャーレル・アッシュ社 IM平面回折分光写真器M-I型構成品)を用いた実験を行った。

間隙測定実験概要
 まず実機のモデルを用いて,砥石とWorkの間にレーザ光を投射し,以下をを確認した。
・Workと砥石間隔に応じた回折縞が観察された。
・Laser光の入射角により,回折縞のの垂直方向距離が大きく変化し,また像が2つ現れた。
・観測結果は単スリット間隔を用いた理論値[2]とは大きく異なった。
次に光学テストベッドを用いた実験を行った。その結果,間隔が140μm以下では測定誤差が10μm程度であることが分かった行った。

考察
 実機での計測誤差には,研削物鏡面反射,テストベッド精度,半導体レーザのコヒーレンスやの欠如,光学テストベッドでは,個人の技量に頼った目視計測,スリット精度が悪いなどの理由が考えられた。
 今後実験を推し進め,計測精度を向上させるためには,テストベッド高精度化や平面—円筒スリットでの理論検討,計測の自動化を進める必要があると思われる。

まとめ
 光の回折現象を用いた高精度間隙測定システムの研究開発状況について報告した。今後,測定の自動化や,光学テストベッドを用いた砥石とWorkの間隙測定などを行い,実機への応用検討を行なう予定である。

難加工性材料の超精密・鏡面研削加工技術の開発

<事業名>先端技術開発事業:超精密加工技術開発事業(国庫:広域共同研究)
<担当者名>森由喜男,和嶋直,久田哲弥,渡辺洋一
<目的>形状精度1μm以下,表面粗さ0.05μmRy以下の加工精度を短時間に実現可能な加工技術の開発
<内容および結果>
精密金型などの付加価値の高い精密機械部品では,加工精度として1μm以下の形状精度と0.1μmRy以下の表面粗さの鏡面の同時達成が必要で,さらに近年はこれらの加工精度を満足した上で,如何に早く安く作るかといった生産性の向上が求められている。一般的にこれらの精密部品に使用される材料の多くは高硬度,高強度等を示す難加工性材料であるため,ラッピングや手仕上げ研磨などの遊離砥粒を用いた加工法が適用される。この場合,比較的容易に鏡面加工が可能であるが,一方,面だれなどによる形状精度の劣化や加工能率の低下などが問題となる。
 以上の背景から,本技術開発では能率の高い研削加工(固定砥粒加工法)により,高い形状精度と0.1μmRy以下の表面粗さを短時間に実現し得る超精密・鏡面研削に関する加工技術開発を実施した。本年度の研究内容および結果を簡単にまとめると次の通りである。

ダイヤモンド砥石の高精度・高能率ツルーイング・ドレッシング技術の開発
鏡面研削用ダイヤモンド砥石に適合するツルーイング・ドレッシング方法を検討し,ステンレス鋼(SUS304)研削法,単石ダイヤモンド法及び複合法を開発し,特許出願を行った。

共同研究試作品の超精密・鏡面研削加工
本研究は材料開発と精密加工技術開発を一体化した東北ブロックの広域共同研究であることから,開発成果の実用化・製品化を促進するため,共同研究試作品の製作を実施した。当所では最終工程の超精密・鏡面研削を担当し,共同研究機関である他県公設試が開発したADIおよび焼結ステライト材を用いて定盤,精密ブロック及び平面ミラーの試作を行った。

金属粉末射出成形法による金属部品製造技術の開発


<事業名>先端技術開発事業:新素材応用研究開発事業
<担当者名>矢口 仁 ,小野 仁 ,有住和彦
<目的>金属粉末射出成形法 (MIM, Metal Injection Molding)は従来の粉末冶金法の欠点を補い,かつプラスチック製品と同様に小型複雑形状金属部品を大量生産可能な比較的新しい金属加工法であるが,現状においては使用実績の少なさからその優れた特長を生かした生産は行われていない。本研究開発においてはMIM法を適用可能な鋼種の拡大のために最も重要である焼結製品の成分安定化技術の確立を目的とし,特に脱脂・焼結時に生じる炭素成分量の変化機構究明および炭素量制御方法の提案を行う。
<内容および結果>
MIMにおける炭素成分量の変化機構を明らかにするため,無バインダー試料を調製し,その変化の追跡を行った。使用した金属粉はSCM415粉末(PF20,水アトマイズ粉末,平均粒径約10μm,大平洋金属(株)製)であり,これに炭素粉末(Ketjen Black EC600JD)を種々の割合で混合,プレス成形および焼結を行った。成形条件および粉末混合方法を表1に示す。焼結雰囲気が炭素量変化に及ぼす影響も併せて検討するため,焼結雰囲気は真空,窒素ガス雰囲気およびArガス雰囲気の3種類を用いた。
原料粉末の初期酸素量はMILシートのデータより0.535 wt%である。ここで焼結時における脱炭が以下の反応で起こると仮定する。
C(s) + O → CO(g)↑  1)
したがって,焼結体の炭素量は以下の式により推算される。
[C] = [C]0 – (12/16)×[O]0 2)
ここで[C]は製品の炭素量(wt%),[C]0は成形体の初期炭素量(wt%),[O]0は成形体の初期炭素量(wt%)である。図1中の理論値のグラフは2)式に基づいて計算を行ったものである。2)式に基づいて初期炭素量から焼結体炭素量の制御を試みた結果,初期炭素量0.610 wt%に調製した試料をAr雰囲気中で焼結後,JISのSCM415の成分範囲に炭素量が収まった焼結材料が得られた。また,焼結体密度についても,より混合状態が良好と推測されるボールミル混合粉末を原料とした場合に,より高い焼結体密度が得られた。

新酵母を用いた低アルコール酒の開発

<事業名>醸造・食品加工技術高度化事業
<担当者名>今野政憲,武田俊一郎
<目的>清酒のツワリ香の主因物質であるビシナルジケトン(VDK)類を蓄積にしくい酵母を育種し,低アルコール清酒の商品化に対する技術的支援を行う。
<内容および結果>
清酒酵母のVDK類蓄積能を評価するための,液体培養試験および清酒小仕込試験について,それぞれの条件を協会7号酵母を用いて検討した。
 液体培養試験については,窒素源としてカザミノ酸のみを加えたSD最少培地に,前培養した酵母を初発菌濃度1×106cell/mlに接種し30℃で培養した場合においてVDK類の安定的な蓄積が認められた。
清酒の小仕込試験については,改変水こうじ仕込もろみを15℃一定で発酵させた場合において,VDKの安定的な蓄積が認められた。

食物繊維資源の有効利用に関する研究


<事業名>先端技術開発事業:醸造食品加工開発事業
<担当者名>對崎岩夫,中塚朝夫
<目的>おからは,低カロリーで食物繊維の供給食品等として好適であるが,その食感の悪い事等が理由となり,利用例は限られている。また,極めて腐敗しやすい事が流通上の障害となり,食品素材として多様化されるに至っていない。そこで,おからを利用しやすい簡便な食品素材等として活用することを検討した。
<内容および結果>
これまでに,ゼラチン水溶液中に,おから,タンパク質架橋重合化酵素および保湿剤等を混合して高速攪拌し発泡成形することで,おから成型物を得ることができた。これにより,再利用するにも加工度が低く,廃棄されがちであったおからを,新たな性質を持つ食品素材として有効に用いることができ,付加価値の高い製品開発が可能になった。今回は,本素材の食感改善技術を確立し,試食検討会等を通して,企業化可能なおからを用いた新規食材の提案を行った。
食感改良は,各種乳化剤添加,酵素反応およびミキシングバランスとで行った。乳化剤は,プロピレングリコールエステル,モノグリセリド,ソルビタンエステル,ショ糖脂肪酸エステル,大豆リン脂質等を用いた。その結果,これら乳化剤の使用により発泡度の調節が可能になり,最大2倍まで増加可能になった。
酵素反応は,酵素濃度と反応温度の両面から検討を行った。硬食感にするには高温域で,柔食感にするには低温域で反応を行うと良い傾向が認められた。また,酵素濃度を変化させることで,より広い範囲での硬さの調節が可能になった。これらと攪拌混合の程度変化の組合せにより,おから成型物の食感の硬軟調節が幅広く可能になり,食材としての利用度が増加するものと考えられた。
おから食材の商品化の方向性を決定するために,繰り返し試食検討会を行った。初期の段階では,パン,ソーセージ,蒲鉾等の既存食品におからを混合させて無添加のものと比較し,食材としての利用可能性を検討した。その結果,パン,ソーセージ,蒲鉾等の既存食品におからを混合させたものは,食感がボソボソする等難点が多く,食材として問題のあることが認められた。今回開発したおから成型物は食感が良好で,おから量も約50%程度まで混合可能であること等から,本素材の食材化が最も有効であるものと考えられた。 最終の試食検討会は,商品化用試作品として10品目を準備し,20人のモニターに試食してもらい,おからゼラチン成型物の企業化可能食材を選択した。

超臨界流体を用いた環境調和型工業洗浄装置の開発 —洗浄度の解析手法の確立—

<事業名>先端技術開発事業:地域コンソーシアム研究開発事業
<担当者名>宮本達也,佐藤勲征,中塚朝夫
<目的>汚れ成分に応じた分析手法の策定を行い,超臨界流体で洗浄した試料の分析を行う。これにより,超臨界流体洗浄法の能力の評価を行う。また,簡便かつ実用的な洗浄度評価方法を確立する。
<内容および結果>
本研究(実施期間平成9〜11年度)の全体の目的は,超臨界二酸化炭素(SC CO2)を用いて,その高浸透性や回収の容易さ等の特性を生かした,環境にやさしい易操作性かつ小型の工業洗浄装置を開発し,実用化をめざすことである。
今年度は,まず,汚染物質の種類及び残存許容量,洗浄評価方法の把握のため,文献,特許及び実試料(工業部品)の調査を行った。また,汚染物質の適切な分析手法について検討を行った。FT-IR-RAS(フーリエ変換赤外高感度反射スペクトル)法の測定結果,従来の測定方法の検出限界を超える定量化が可能であることを確認した。さらに,SC CO2による洗浄実験については,実際の汚染物質中の化合物をモデルとし,洗浄条件を変化させ,洗浄結果のデータを収集した。その結果,被洗浄物の形状あるいは汚染物質の種類によって最適な洗浄条件の設定が必要であることを確認した。ここではFT-IR-RAS法の検討について述べる。

FT-IR-RAS法の検討洗浄度の評価に関して,金属板上あるいは溝中の汚染物質を定量する場合には,我々は主にFT-IR顕微反射法を用いてきた。しかし,精密洗浄の評価において,monolayerレベル(膜厚で1 nm以下)の汚染物質の測定には,この方法では感度が不足している。
RAS (Reflection Absorption Spectroscopy)法は反射吸収法,偏光反射法,高感度反射法などとよばれ,特に金属基板上の有機薄膜のスペクトル測定に優れている。しかし,汚染物質の定量に使用できるような基本的なデータが少なく,洗浄度の評価に直ちに応用できる状態ではない。
そこで我々は,代表的な汚染物質であるプレス油と類似の組成をもつ流動パラフィンについて,赤外線の入射角度および偏光面を変化させて赤外反射吸収スペクトルを測定した。また吸収強度の角度依存性について理論値との比較を行った。
アルミニウム蒸着円形ガラス板上に塗布した,流動パラフィンの赤外吸収スペクトル強度の入射角依存性を右の図に示す。s-偏光(垂直偏光:電磁波に伴う電場が入射面に垂直に振動する偏光成分)の場合,入射角の増大による強度増加はほとんど認められない。一方,p-偏光(平行偏光)の場合,入射角増大に従って吸収強度は著しく増大し,入射角80°では入射角20°の約30〜40倍の吸収強度を示すようになる。
 また,計算結果より,RAS法による吸収強度は,通常の顕微反射FT-IR法の50〜100倍,あるいは透過法の7〜10倍程度になることを確認した。よって,RAS法を適用することにより,平滑な面をもつ金属板,あるいは平滑な底面をもつ溝の洗浄度評価において,これまでの検出限界を超える定量化が可能である。

三次元設計によるデザイン開発研究

<事業名>先端技術開発事業/商品化支援事業
<担当者名>佐藤明,伊藤克利
<目 的>
商品のライフサイクルの短縮化や多品種少量生産が拡大する中で,県内中小企業においても,市場ニーズに対応した迅速な商品づくりが大きな課題となっている。本研究においては商品開発における効率化,迅速化を目的とした商品化支援システムの一体的活用とその構築を図りながら,併せて地域の素材を利用した商品開発を3次元設計技術などを活用し実践的に行い,商品化支援を行ったものである。
<内容及び成果>

  1. コンクリート2次製品における設計及び多品種少量生産への応用
     (即時脱型方式(プレス成形)における多品種少量生産および商品開発期間の短縮化)
    従来,即時脱型方式用の表面層のパターン用の型は,金型にて製作しているが,金型の製作費用及び,製作期間の長さにより,小ロットへのオーダーに対して対応が困難であった。そこで,3次元CAD,光造形機を活用しながら型製作の検討を行い,その結果低コストでかつ迅速な型製作の仕様を選定することができた。なお,試作した製品デザインは,盲人用の点字平板で,交差点等において平板の配列パターンを崩すことが なく,視覚障害者を誘導できる形状となっている
  2. 工芸品の量産化への応用  (雄勝硯の端材を有効利用した商品開発)
    雄勝硯は国の伝統工芸品に指定さてれいるが,その需要は年々減少傾向にある。また,原料となる玄昌石のうち硯および工芸品として使用されるのはわずか3%で97%は廃材として未利用のままである。そこで,廃材の有効活用を目的に新たなクラフト製品(商品名:雄勝カラーストーン)の開発を行った。この素材は,硯やスレート材の端材として出る小さな雄勝石を,セメント,水溶性樹脂,石膏,顔料などを複合させ,新たな技術を導入しながら開発したものである。その結果,注型成形により製造でき,従来の硯やクラフトにおいて製作困難だった複雑形状の成形が可能となり,また,3次元CAD,光造形機との連携で開発期間の短縮化が図られた。

光造形法による精密鋳造製品の開発

<事業名>先端技術開発事業:商品化支援事業
<担当者名>荒砥孝二,千代窪毅
<目 的>光硬化樹脂模型を適用した新しい精密鋳造プロセス技術の確立
<内容及び成果>
本研究においては,光造形から鋳型製作,溶解鋳造に至る各プロセスの製造条件について実験的に検討した。
本法適用にあたっての課題である脱模型工程の「鋳型割れ」防止対策として,光硬化樹脂模型肉厚の薄肉化や樹脂の熱分解特性を詳細に調べ,最適な脱模型・焼成条件パターンを見出した。次に,寸法精度・表面粗さに関する精度評価模型及び鋳造品を作製し,従来法との差異を明らかにした。また,実用化に向けたモチーフとしてインペラーを試作,金属加工における多品種少量生産手法として,本プロセス適用の可能性を追究した。
得られた研究結果を要約すると次のようになる。
樹脂模型肉厚と鋳型割れとの関係については,模型肉厚が1mm以下及び中空ハニカム構造化が割れ防止に有効であり,抑制効果が認められた。
樹脂の熱分解特性調査結果から,600K(327℃) 〜 720K(447℃)の温度範囲では,昇温速度を抑えるか0.3〜0.5時間程度の温度保持を段階的に行うことにより,分解ガスの発生を分散できる。
焼成パターンとしては,573K(300℃)以下の温度範囲(特に,473K〜573K 間)で遅速昇温し,573K〜673K間に温度一定保持セグメントを入れると,樹脂の熱膨張が抑制でき,効率的な焼成ができる。
鋳型作製条件としては,使用原材料,スラリー調整ともに従来法と同様の条件で,樹脂模型のコーティングが可能であるが,初層及び第2層コーティングスラリー粘度は30秒(ザーンカップNo.4),3〜7層は17〜20秒が望ましい。
鋳造品の寸法精度については,積層ピッチ100ミクロンモデルにおいて基準値を超える結果が得られたが,この量を光造形時のレーザ走査パラメータ設定にフィードバックすれば,より精度向上が図れる。
表面粗さは,モデル角度が5〜10度において最大値を示し,角度上昇とともに減少傾向を示す。また,積層ピッチを小さくすることが粗さ低減に有効である。
試作品として,インペラー(材質:FCD500 単重:2Kg)を作製評価した。

アルカリ熱硬化法による低コスト・多機能建材の開発

<事業名>技術熟成支援事業:共同研究事業
<担当者名>斎藤雅弘,新日鐵化学(株) 古賀卓哉,平戸靖浩
<目 的>
アルカリ熱硬化法により作製した成形体に発生する「アルカリ熱劣化現象」の完全な再現およびその発生メカニズム解明を踏まえた抜本的な対策を図るための指針を得る事を目的とする。
<内容および結果>
パーライト系アルカリ熱硬化体の大きな特長として,主原料のパーライトに対して水酸化ナトリウムと水を添加した混合原料を所定の金型に充填し,低い温度(160℃)と低い圧力(5kgf/cm2)を短時間(10min)負荷するだけで任意形状の軽量成形体を容易にかつ低コストで作製できる点が挙げられる。しかし,本材料は建材等へ利用するのが最適であるとされているのだが,実用化された事例が未だにない。この材料が実用化の際に最大の障壁となっているのは室内に放置したのみの状態で「アルカリ熱劣化」と言う置き割れ的な経時劣化現象が避けられない事にある。この現象は,成形体中に局在的に残留している水酸化ナトリウム成分(イオン形態)に空気中の湿分と室内の温度とが加わり,速度的には遅いながらもアルカリ熱硬化反応が再度進行した結果,材料が局部的に膨張を引き起こす事により材料内部に強度低下をもたらすのに十分な程度のラージクラック(巾数10μm,長さ数mm以上)が随所に発生するものであると考えられている。
そこで本研究ではこの問題解決を図るために,アルカリ熱硬化反応を十分に促進させる,すなわち,材料作製終了時において残留している不要なアルカリ成分を極力なくすための手法として,(1)アルカリ熱硬化反応条件の見直し(2)第3成分の添加と言う2つのポイントに着目して検討を行った。その結果,標準品(160℃-10min,NaOH10%,比重0.4)に対して加熱保持時間を10minから13minへ延長する,第3成分としてアルカリ熱硬化反応促進剤を添加するなどの対策を施す事により,アルカリ熱劣化現象を短時間に強制的に引き起こさせるための加速試験(例えば,1hの含水処理→昇温速度4℃/min→60℃-2h Keep)を実施した後においても,上述した様なラージクラックの発生はほとんど認められなくなった。また,対策を施したこれらの材料に対して,「損傷マップ」を作成する事により,建築材料としての実用可能範囲を示したところ,ターゲットとしている内壁材や天井材への使用に本材料が十分耐え得る事が判明した。
これらの結果に基づき,今後はアルカリ熱劣化の発生メカニズム解明のための一助となり得る簡易モデルの作成を行うと共に,市場ニーズにマッチした商品化を目指して,アルカリ熱劣化対策をベースとした吸放湿性を始めとする各種特性付与を順次図っていく予定である。

微量有害陰イオン種の分析と分離のための分離技術に関する研究

<事業名>技術熟成支援事業・創製研究事業
<担当者名>小林セツ・斎藤善則
<目 的>
新素材の製造・加工工程の排水には有害な陰イオンの含有が懸念されている。ヒ素やセレンは形態の異なる複数の陰イオンが存在し,そのイオン種によって,化学的性質や毒性が異なるため,微量分析に加えてイオン種の分析も要求されるようになってきた。これらのイオン種を排水基準値の0.1ppmで分析することを目的とした。
<内容および結果>
微量陰イオンの除去を目的に開発されたジルコニアを担持させた樹脂はヒ酸イオン(AsO43-),亜ヒ酸イオン(AsO33-)を含むヒ素化合物を効率よく吸着することが報告1)されている。この樹脂のAsとの分配係数は大きく,また,イオン種により差が認められることから,希薄な溶液中のこれらイオンの分離と濃縮について検討した。
 Zr坦持樹脂は多孔質樹脂(アクリル酸エステル)をZrOCl2・8H2Oに含浸後,加水分解,水熱処理して作成したもので,東北工業技術研究所から提供を受けた。この樹脂をカラムに充填し,1M NaOHで洗浄後,pH4に調整した。試料溶液のpHは5とし,流速はすべて毎分1mlとした。
樹脂1gを内径10mmのガラスカラムに充填し,10ppmのAsO33-またはAsO43-の溶液を10ml通した。吸着したAsをNaOH溶液で溶離し,10mlづつ分取してICP-AES法により測定した。AsO33-,AsO43-ともに1M NaOHで溶離を試みたが,完全に回収することは困難であった。また,混合液中のイオン種の分離も困難であった。このカラムでは分離も濃縮も困難であったので,ミニカラムを作成して濃縮について検討した。10ppmの溶液10mlを通した後,NaOH溶液で溶離した。この時,試料溶液と溶離液の通す方向を反対にし,樹脂からAsイオンの脱着を容易にした。AsO33-は0.2M以上で,AsO43-は1Mで完全に回収することができた。また,As濃度10ppm,1ppm,0.1ppm溶液の回収実験をおこなった。樹脂に吸着後1週間放置した場合は回収率が低下した。Zr樹脂中にAsを長時間保持させると回収率が低下するものの0.1ppmの溶液1000mlを50mlに濃縮することが可能で,この場合の濃縮率は20倍となる。次年度はヒ素,セレンのスペシエーションを検討する。

水熱反応を用いたキチンオリゴ糖の抽出に関する研究

<事業名>産業廃棄物対策事業
<担当者名>渡辺洋一,伊藤伸広,毛利哲
<目 的>
本県で大量に発生する水産業廃棄物のかに殻は,現在キチンキトサンの原料として流通している。しかしながら,キチンキトサンの精製,さらには有用物質であるキチンキトサンオリゴ糖の精製は膨大な時間を要し,生産性が非常に悪く価格が上昇し,原料の有効利用ができないのが現状である。本研究では,特に精製に時間を要するキチンキトサンオリゴ糖の精製プロセスに着目し,水熱反応を用いてキチンから直接キチンキトサンオリゴ糖を高速に抽出し,生産性の向上を図ることを目的とする。
<内容及び結果>
今年度は昨年度の結果をふまえ,キチンの部分加水分解の際にアミノ糖の構造を破壊しないような反応を検討した。まず,反応溶液に酸素供給材として過酸化水素水を混入させる(反応条件の低温度化),次に,反応溶液を弱アルカリ性にし,側鎖のアミノ基の脱離反応を抑制し,糖のグリコシド結合の加水分解を優先させる。前記について,実験方法は反応管にキチン粉末と反応溶液を封入し,溶融塩浴に投入する方法で行い,反応溶液に過酸化水素水,pH調整溶液を用いる方法で行った。分析はHPLCによる分子量分布調査,エルソン・モーガン法によるアミノ糖の定量を行った。

過酸化水素水を用いた部分加水分解
1%過酸化水素水を反応液に用いた場合の転化率を検討した結果,特に250℃において,600sec.における転化率は50%と亜臨界水の反応と比べておよそ3倍まで高くなった。330℃においては,150sec.において80%以上の転化率が得られ,高速に反応が進行していることがわかる。酸素供給材を反応液に加えることが,反応の低温度化,反応の高速化に有効な手段であることがわかった。
HPLCによる分子量分布測定の結果,キチンオリゴマーの分子量に一致する生成物は観察されなかった。

ほう酸緩衝水溶液を用いた部分加水分解
0.1M,pH=8.0のほう酸緩衝液を用いた場合の反応時間と転化率を検討した結果,250℃においては反応時間1800sec.においても転化率は20%以下と低い。330℃においては80%以上の転化率が得られるが,15分以上かかることがわかった。
HPLCによる分子量分布を測定した結果,330℃における,360,600,900,1200sec.のサンプルに,キチンオリゴ糖の6量体,2量体にほぼ一致するリテンションタイムで溶出するピークが観察された。これらのサンプルにおいて,水溶性生成物のエルソンモーガン法によるアミノ糖の定量を行った。各結果ともに,アミノ糖のグラム%は0.033%以下と低い値を示した。HPLCの結果によるピークの面積から,原料粉末に対して,オリゴ糖と思われる物質が約3%程度しか生成しておらず,原料粉末に対するキチンオリゴ糖の生成量はごく微量であることがわかった。

「雑誌古紙を用いた発泡成形エコマテリアルの開発」
-雑誌古紙を用いた発泡成形エコマテリアルの実用処方確立-

<事業名>産業廃棄物対策事業
<担当者名>伊藤啓雄,中塚朝夫,原田牧人
<目的>再生不適な古紙を用いて,発泡スチロール・発泡ポリウレタンに代表される,化石資源由来素材の代替品を開発し,緩衝材として商品化する。
<内容および結果>

  1. 架橋反応の制御方法の開発
     ゼラチンの架橋に有効な「ホルマリン(ホルムアルデヒド)」について添加条件(添加時期等)・制御方法(温度・pH・濃度等)を見いだしていたが,製造時における人体への被爆の懸念・建材等に使用した場合の室内環境に与えるVOC濃度・その環境中に住居する人間のハウスシック等を考慮し,それ以外の架橋剤についてRVA(ラピッドビスコアナライザー)により検討した。
    その結果,ゼラチンの硬化に有効な架橋剤を見いだし,その濃度による架橋反応速度の制御の可能性を見出した。
  2. 物性制御・添加物の検討
    本素材の特性として,生分解性が挙げられるが,緩衝材の使用環境は特別に清浄な環境ではないため,使用中に微生物により分解させるおそれがある。そのため物性として抗菌性・防黴性の賦与について低環境負荷・安全性を考慮し検討した。
    その結果,食品添加物(食品衛生法により認可されたもの)の中から抗菌性・防黴性を付与する有望な系統を見いだし,放置試験を行った。その結果,中長期的な抗菌性・防黴性を有することが判明した。
    なお,本研究は,NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託を受け, 鈴木工業株式会社および三菱化工機株式会社との共同により実施したものである。

天然抗酸化成分の食品への応用

<事業名>特定中小企業集積活性化支援事業 研究開発事業
<担当者名>毛利哲・伊藤伸広
<目的>本県食品産業の課題の一つである付加価値の低さを解決するために,付加価値の高い健康食品素材について技術開発を行う。
<内容および結果>
今年度は,抗酸化力(リノール酸過酸化物還元消去能)の点から,ターゲット素材の絞込みを行った。リノール酸の過酸化物に対する還元能は,マグロ等赤身の魚で非常に高かったが,酵素反応と思われ加熱に弱かった。一方ねぎ,たまねぎ,および一部の豆類は加熱にも安定であり,実用の点から期待された。
今後,これらの素材について,実際の食品中での有効性,反応メカニズムの解明と抽出の効率化など,実用上の課題について検討していく予定である。

天然機能性成分の食品への応用 —天然抗菌物質による品質保持技術の開発—

<事業名>特定中小企業集積活性化支援事業
<担当者名>原田牧人,畑中咲子,武田俊一郎
<目的>
食品製造業では,微生物制御のためソルビン酸に代表される合成保存料が使用されてきたが,消費者の健康志向等により天然保存料への要望が高まっている。そこで,本研究では中小企業で導入可能な天然物由来保存料の開発を目標に,天然物(生薬)の抗菌性試験,抗菌成分の抽出方法などを検討した。

<内容および結果>

  1. 研究方法
    • 供試サンプル:(1)インチンコウ (2)ウイキョウ (3)オウバク (4)カンゾウ
               (5)キキョウ (6)コウボク (7)サンショウ (8)ニンジン (9)レンギョウ (10)ケイヒ
    • 抽 出 方 法 :(1)抽出溶媒:蒸留水,エタノール (2)抽出温度:60℃,100℃(蒸留水のみ)
    • 抗菌性試験 :(1)供試菌株:Bacillus subtilis Escherichia coli Leuconostoc mesenteroides
               (2)抗菌性試験:シャーレに抽出液1mlとミューラーヒントンS寒天培地9mlを入れ混合し,凝固後5μの菌液を接種し,37℃で培養した。
               (3)熱安定性試験:水抽出液を10分間沸騰させた後,抗菌性試験を行った。
  2. 結果
    • Bacillusに効果があったのは,レンギョウ水抽出液(60℃,100℃)とオウバク・カンゾウ・コウボクエタノール抽出液(60℃)だった。
    • E.coliに効果があったのは,ケイヒ・サンショウ・レンギョウ水抽出液(60℃,100℃)とカンゾウ・ケイヒエタノール抽出液(60℃)だった。
    • Leuconostocに効果があったのは,オウバク水抽出液(60℃,100℃)とカンゾウ・コウボクエタノール抽出液(60℃)だった。
    • 水抽出液の熱安定性試験では,加熱により抗菌性に変化はなかった。

自立・介護支援のための知的触覚インターフェースの開発

<事業名>福祉用具産業支援事業:福祉機器研究開発事業
<担当者名>太田靖,笠松博,矢口仁
<目 的>
FES(機能的電気刺激)による四肢関節運動機能再建において,障害者が実生活で必要となる支援技術を検討し,新たな福祉機器・システムの創出を目指す。このため,下肢障害者に対するアシストや,最も有効かつ安全にFESを機能させられるシステムを実現すること,および,FESによる歩行再建に必要となる諸条件を探るとともに,システム実現に必要なセンサ等の仕様を決定することを目的とする。
<内容および結果>
本年度は,主に技術調査を通して工学および産業サイドからFES患者の実生活における自立を支援するためのシステムの構築に必要な以下の検討を行った。

FES技術調査
 現状のFES技術調査を行い,システム構築に必要な要素技術を把握した。また,個々のFES事例を通して,どのような障害に対してどのような処置(機能再建)が有効かという観点から整理した。歩行FESに関しては,歩行器,平行棒などの支持・補助具付の歩行再建はすでに実用段階に来ている。一方,現段階ではオープンループでの制御がほとんどであり,安定した動作を実現するためのフィードバック制御は,立位保持では試みられているが,歩行時における転倒防止などに関してはこれからであることが分かった。

歩行メカニズム調査
 安全にFESを機能させられるシステム実現のために,歩行動作について調査し,歩行状態の把握および歩行中に倒れないようにするためのフィードバックに必要なセンシング要素を検討した。その結果,臨床歩行の計測例より歩行状態の把握には最少限5ポイント(片側)の三次元位置計測による各関節位置および床反力の計測が(各関節にかかる力の定量に)必要であることが分かった。また二足歩行ロボットにおける歩行制御例から,歩行の各瞬間における転倒力モーメント(足底にかかる全慣性力中心と,床反力中心との差により生じる)を検出し,これをゼロにするように足の着地位置や歩行速度を制御することが必要であることが分かった。

高機能磁気デバイスの開発
-携帯電源の開発/軟磁性薄膜作製技術の高度化-

<事業名>地域結集型共同研究事業
<担当者名>堀豊,高田健一,矢口仁
<目 的>電源モジュールの小型化には不可欠の部品である薄膜磁気デバイスを開発する。
<内容および結果>

  1. 概要
     電源モジュール(DC-DCコンバータ)の主要部品であるインダクタ(トランス)の薄膜化に関する研究実績を追跡し,研究課題の抽出と今後の展望を明らかにすることを目的とした。平成10年度はスイッチング電源の現状調査,薄膜インダクタの特許調査開発ポイントを抽出することを目標に,スイッチング電源の現状調査,薄膜インダクタに関する特許調査,磁場シミュレーションによる薄膜インダクタの特性及び設計手法検討,市販DC-DCコンバータの特性調査等を実施し,薄膜インダクタの開発ポイント抽出を図った。
  2. スイッチング電源の現状調査結果
     市販モジュール型電源の電力密度は約1W/ccで,様々な用途に応じるために同一形状で多数の商品が存在する。オンボードタイプではスイッチング制御ICを多数のメーカーが製造しており,そのICと推奨外付け部品(MOSFET,コンデンサ,インダクタ等)を組み合わせることで要求仕様を満たすDC-DCコンバータをボード上に組み込んでいる。電力変換効率は最大80〜90%が実現されている。
  3. 薄膜インダクタに関する特許調査結果
     薄膜,インダクタ,磁性等のキーワードで検索。磁性材料,磁心形状,インダクタ形状,半導体素子製造工程への組み込み等を中心に出願されており,当該分野の近年の開発方向を把握できた。
  4. 磁場シミュレーション結果
     渦電流損失まで考慮した薄膜インダクタの磁場シミュレーションを行い,シミュレーションによる設計手法を確立と,損失の分類による特性改善のポイントの抽出を目標とした。解析モデルはCoNbZr系の磁性膜平面にスパイラル状のCu導体ラインを配した構造を想定した。
     解析の結果,磁性体の選択はインダクタンスを増大に効果があるが,今回想定したモデルに関しては磁性体の渦電流損失由来の抵抗が大きく,インダクタ全体の等価抵抗の大部分を占めることを明らかにした。
     また,高周波化を鑑みて導体ラインの抵抗成分のAC成分に着目し,その発生部位と要因を明らかにした。さらにインダクタンスの増大には厚膜化が有効であるが,表皮効果のため膜厚には上限があることから,表皮効果を考慮した磁性体内部での磁束密度分布を解析し,磁性体膜厚は数μm程度が上限で,高性能化のためには多層化が必須であるとの設計指針を導出した。
  5. 市販DC-DCコンバータの特性調査結果
     フラッシュメモリ及びPCMCIAカード用の小型昇圧DC-DCコンバータを調査対象として,カタログスペック以上の過負荷時の出力電圧変動をオシロスコープで,基板上の各素子の発熱状態を赤外線熱画像装置で各々実験的に調査した。その結果,出力保証電流値の2倍以上の過負荷では出力信号にリップルノイズとスパイクノイズが発生し,基板上ではチップダイオード,ドライバIC,インダクタが大きく発熱することが明らかとなった。

高機能磁気デバイスの開発 -多元感覚情報感温感圧センサシステム/多元感覚情報センサモジュール構築に向けた要素技術の開発-

<事業名>地域結集型共同研究事業
<担当者氏名>中居倫夫,天本義己,矢口仁
<目的>多元感覚計測用センサの仕様および構造決定のための調査並びに要素技術開発の予備実験
<研究内容および結果>

  1. 概要
     多元感覚計測用センサとして,温度・圧力を同時に計測可能な複合センサの仕様と構造を決定するため,各種センサの製品調査および特許調査を行った。また,センサ複合化のための積層構造実現に重要な要素技術である電気的絶縁膜の形成に関して予備的な実験検討を行い,さらに感覚センサとして面分布を計測するため,アレイ化した複数のセンサの高速収集する電気回路とソフトウエアの検討および試作・評価を行った。
  2. 各種センサの製品調査結果
     温度圧力複合センサについては,温度補償機能を付加した半導体圧力センサや射出成型装置内部の溶融樹脂の温度・圧力を同時計測するセンサの例があるが,製品例としては少ない。
     温度センサに関しては,市場動向を業界団体の統計報告・概況報告等を用いて調査するとともに,各メーカーのカタログ等からスペックの比較・分析した。また,公開特許(国内・米国)をもとにした技術動向(特に薄膜型および表面実装型温度センサ)も調査した。 圧力センサに関しては,市場規模は,223億円(1995年度)。用途別市場規模割合は自動車電装品用,産業器機用で全体の約7割を占める。圧力検出素子種類による分類では,シリコンダイヤフラムを用いた半導体圧力センサが69%と大半を占める。素子別測定可能範囲は,1kPa以下の圧力領域では静電容量型が優位であり,半導体型は1kPa〜200Mpaの圧力領域で,温度補償範囲は-20℃〜+80℃がほとんどである。スパッタ薄膜歪みゲージ型の中には,100kPa〜100MPaの圧力範囲で,例えば-195〜+27℃,+24〜+315℃という広い補償温度範囲を実現しているものもあるが,高価である。
  3. 温度圧力複合センサに関する特許調査結果
     1981年以降で関連する特許は8件。1981〜1992年は半導体圧力センサに関連した複合センサが大半であり,1993年以降は,薄膜やポリマーを用いた複合センサー特許申請が増えている。
  4. 電気的絶縁膜の形成に関する予備的な検討結果
    SiO2膜を電子ビーム蒸着により成膜する実験を実施。ガラス基板上への成膜実験では,膜厚20μmのピンホールの無いSiO2膜が,基板への密着性も良好に成膜可能であることを確認した。
  5. アレイセンサの信号収集回路とソフトウエア設計・試作結果
     2次元アレイセンサの行と列の番地を指定し,その番地における抵抗値変化を電圧変化として出力する信号収集回路を設計・試作した。また,本回路から出力された信号はA/D変換器によりパーソナルコンピュータに取り込み,ディスプレイ上に2次元のデータ分布図(各センサの測定値に応じて変色)として表示するソフトウエアを試作した。
    本システムの動作確認の結果,設計通り指定番地における抵抗値変化のディスプレイ表,並びに表示速度10画面/秒を実現可能であることを確認した。