食品の香気分析・香り評価に関する技術調査

更新日: 2021年12月24日
 
  • 羽生 幸弘,大坂 正明1,浅野 壮宏
    食品バイオ技術部,1 現 カゴメ(株)イノベーション本部農資源開発部
  • 先端技術等調査研究事業
  • 事業期間: 令和2年~令和2年 (2020~2020)
当センターでは香りに関する技術支援にガスクロマトグラフ質量分析装置(GCMS),ヘッドスペースガスクロマトグラフ(HSGC)等のガスクロマトグラフを活用している。GCMSでは,固相マイクロ抽出法(SPME法)を主に用いているが,特性の異なるSPMEファイバーの香気成分吸着能を比較し,分析目的ごとに適切なファイバーを選択するための知見を得た。HSGCにおいては多検体を迅速に分析したいというニーズに対して適切なカラム内径や長さを検討した結果,炭化水素混合試薬(C6~C16)の分析時間を20分程度に短縮することができ,分離能およびピーク形状の改善ができた。
キーワード: ガスクロマトグラフ ヘッドスペース法 固相マイクロ抽出法 香気分析

1.緒言

食品の香りは嗜好性への関与が大きく,食品そのものの質的価値に影響を与えることも多い。しかし食品の香りは数十から数千の多種多様な香気成分から成り立つといわれ,さらに構成する各成分はその構造によって香りの質や閾値が大きく異なり,濃度によって感じ方が変化する成分も含まれる。そのため,一つの食品でも香気成分の組成は複雑で,かつ,微妙な香気成分の組成バランスの変化が食品全体の風味の変化に影響を与える1)

こうした香気成分の分析にはガスクロマトグラフが広く活用されており,当センターでは食品の香気成分の分析にガスクロマトグラフ質量分析装置(GCMS),ヘッドスペースガスクロマトグラフ(HSGC),香り評価装置といったガスクロマトグラフを用いている。

GCMSでの分析では,試料導入法として固相マイクロ抽出法(SPME法)を主に用いており,吸着剤の性質によってファイバーに複数の種類が存在することから,目的とする成分に対し適切なファイバーを,測定事例を参考にしながら選択している。しかし,目的成分が不明な際,網羅的に分析する必要があるが,その際に用いるファイバーの選択基準は定まっていなかった。

また,HSGCは最大90検体まで対応可能なオートサンプラーを有しているため多検体分析が可能であるが,現状1サンプル当たりの分析時間が1時間程度と長く,終了まで2~3日間程度を要している。そこで,分離能を低下させずに分析時間を短縮することができれば,より質の高いサービスの提供が可能となる。

そこで,本調査では,SPMEファイバーの種類による香気成分の吸着能の違いを混合試料及び食品によってGCMSで確認し選択基準を定めた。さらにHSGCの分析時間短縮に向けた条件検討を実施した。

2 調査内容及び方法

2.1 ファイバー別の香気成分吸着能調査

1)使用機器及び測定条件

ガスクロマトグラフ質量分析装置(GCMS-QP2010 Plus,株式会社島津製作所)を用い,表1に示す条件で測定を実施した。また,測定に用いたファイバーは表2の通りで,全てSUPELCO社製のものを用いた。

検出器: 質量分析装置
カラムオーブン温度: 40℃-5℃/min‐240℃
カラム: DB-WAX(id 0.32 mm×60 m,0.50 μm)
注入口温度: 240℃
イオン源温度: 250℃
キャリアガス: ヘリウム
表1  GCMS測定条件
材質膜厚(μm)
DVB/CAR/PDMS※150/30
Carboxen/PDMS 75
PDMS/DVB 65
PDMS100
Polyacrylate 85
表2 用いたSPMEファイバーの材質・膜厚

2)香気成分混合試料を用いた分析結果の比較

香気成分としてアルコール11種類,ケトン4種類,アルデヒド6種類,エステル9種類,カルボン酸7種類(表3)を含む飽和食塩水3 mlを20 mlバイアルに封入後,40℃でインキュベートし,そのヘッドスペース部分にSPMEファイバーを5分間曝露した。その後,GCMSに供して得られたクロマトグラムのトータルイオンカレント(TIC)強度を比較し,各成分の吸着しやすさを評価した。

種類化合物名
アルコールethanol, 1-propanol, 2-propanol, 1-butanol, 2-butanol, tert-butyl alcohol, iso-butyl alcohol, 3-petnanol, 2-pentanol, iso-pentyl alcohol, 1-hexanol,
ケトンacetone, 3-pentanone,2-pentanone, 2-heptanone
アルデヒドpropanal,iso-butylaldehyde, butanal, 2-methyl butanal, iso-valeraldehyde, hexanal
エステルethyl acetate, propyl acetate, iso-butyl acetate, ethyl butyrate, butyl acetate, iso-pentyl acetate, ethyl hexanoate, hexyl acetate, pentyl valerate
カルボン酸acetic acid, propionioc acid, iso-butylic acid, butanoic acid, iso-valeric acid, valeric acid, hexanoic acid,
表3 香気成分混合物の内容

3)セリを用いた分析結果の比較

今回,食品サンプルとして宮城県の特産品のセリ(Oenanthe javanica)を用いた。セリは清爽な香りが特徴で宮城県の生産量は全国第1位である2)。本調査ではセリの香気成分について,ファイバーの種類による香気成分の吸着しやすさ及び部位毎の香りの違いを評価した。

セリは葉と茎の部分に分け,それぞれ3 gおよび内部標準として3-ヘプタノール-ジクロロメタン溶液(27.3μg/μL) 1 μLをバイアルに封入し,40℃でインキュベート,そのヘッドスペース部分にSPMEファイバーを40分間曝露しGCMSに供した。使用したSPMEファイバーは表2のうち,赤色(ポリジメチルシロキサン(PDMS)),白色(Polyacrylate),灰色(ジビニルベンゼン(DVB)/カルボキセン(CAR)/PDMS)の3種類とした。

2.2 HSGCの測定時間短縮に向けた検討

ヘッドスペースガスクロマトグラフ(Nexis GC2030/HS-20,株式会社島津製作所)を用い,表4に示す条件で測定を実施した。なお,カラムについてはDB-WAX(内径(id) 0.25 mm×30 m, 0.25 μm)およびDB-WAX(id 0.10 mm×10 m, 0.10 μm)の2種類を用いた。

これらの長さの違う2種類のキャピラリーカラムを用いて,炭化水素C6からC16を含む混合液を測定し,保持時間の比較を行うとともに,各成分の分離状況を確認し,分析時間の短縮を試みた。

検出器: 水素炎イオン検出器(FID)
カラムオーブン温度: 40℃(5min)-10℃/min-240℃(5min)
トランスファーライン温度: 150℃
FID温度: 240℃
試 料: Custom Alkanes Blend standard (Sigma Aldrich) 5μL/20mLバイアル
試料保温条件: 45℃,10min
試料導入量: 1000μl
キャリアガス: 窒素(線速度一定, 9.5cm/sec)
表4 HSGC測定条件

3 結果と考察

3.1 ファイバー別の香気成分吸着能調査

1)香気成分混合試薬を用いた分析結果の比較

各ファイバーで香気成分混合試薬を測定した際のTI Cクロマトグラムを図1に示す。

これより,吸着量は灰色(DVB/CAR/PDMS)>黒色(CAR/PDMS)>青色(PDMS/DVB)>白色(Polyacryla te)>赤色(PDMS)となった。これより,香気成分分析を行うに当たり,網羅的成分分析には灰色ファイバー(DVB/CAR/PDMS)が適していると考えられた

図1 混合試薬を用いたファイバー別の香気成分分析結果

2)セリを用いた分析結果の比較

各ファイバーでセリの葉および茎の香気成分を測定した際のTICクロマトグラムを図2に示す。

これより,葉および茎において,灰色のファイバーを使用した際のピーク強度が最も高く,混合試薬を用いた試験と同様に灰色ファイバーで網羅的に香気成分を検出できると考えられた。

また,葉と茎のTICクロマトグラムを比較すると,葉において検出されたピークの数が多いことから,部位により香りに含まれる成分が異なることが示唆された。

図2 セリの部位及びファイバーの種類別の香気成分分析結果(a)葉,(b)茎
図2 セリの部位及びファイバーの種類別の香気成分分析結果(a)葉,(b)茎

3.2 HSGCの分析時間短縮に向けた検討

10 mカラムおよび30mカラムを使用して同一条件において炭化水素混合試薬(C6~C16)の測定を行った際のクロマトグラムを図3に示す。一般的に広く用いられる30mカラムでは,5min~20min過ぎに検出され,10mカラムでは2.5min~17min過ぎに検出された。また,30mでは,10mカラムに比べ,各ピークにテーリングが見られたほか,高温域でのベースライン上昇も顕著であった。これらの結果から,10mカラムを用いることにより,同一条件でも分離能の向上が期待できることが示された。

©Agilent GC Method Translatorを用いてカラム間で同一クロマトグラムを再現する条件を試算したところ,30mカラムから10mカラムへの変換では計5.6minで分析が完了することが示唆され,10mカラムから30mカラムへの変換では分析時間が184minとなることが示唆された。

ガスクロマトグラフにおいては,一般にカラム長が短い方が分析時間は短くなるが分離能が低下し,内径が小さいカラムは単位長あたりの理論段数が高いことから分離能が上がる3)。 以上のことから,カラムの内径および長さを適切に選択することで,より短い時間で各炭化水素を分離でき,多検体分析時の所要時間の短縮と分離能およびピーク形状の改善が可能となることがわかった。

4 まとめ

本調査において,以下のことが明らかになった。

1)SPMEファイバー別の香気成分吸着能調査

・アルコール類,アルデヒド類,エステル類,エーテル類の混合試薬を用いた評価において,灰色ファイバー(DVB/CAR/PDMS)では他のファイバーに比べ全ての化合物の吸着量が多く,網羅的な香気成分分析に適していると考えられた。

・宮城県の特産物のセリを同様に評価した結果,混合試薬と同様に灰色ファイバー(DVB/CAR/PDMS)で化合物の吸着量が多いことがわかった。また,葉で検出されたピーク数は茎よりも多く,部位によって香りに含まれる成分が異なることが示唆された。

2)HSGCの分析時間短縮に向けた検討

適切なカラム内径や長さを検討した結果,長さの短く,内径の小さいカラムを用いることにより,分析時間の短縮と分離能およびピーク形状の改善が可能であることが示された。

参考文献,引用URL

1)   飯島 陽子,日本調理科学会誌,2018,51(4),p.197-204.

2)    農水省 地域特産野菜生産状況調査

https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokusan_yasai/index.html

3)    ジーエルサイエンス株式会社.“ガスクロマトグラフィー(GC)の基礎”.

https://www.gls.co.jp/technique/technique_data/gc/basics_of_gc/p2_2.html